【10月24日 AFP】デンマーク領グリーンランド(Greenland)で、気候変動により北極の氷床の融解が進み、長年雪原の地下に埋もれていた元米軍基地から汚染物質が漏れ出す恐れが指摘されている──。「氷下の都市」と呼ばれている同施設をめぐっては現在、これら廃棄物除去の責任の所在など、難しい問題が持ち上がっている。

 問題の基地は、米軍が冷戦期のスパイ映画に出てくるような未来的な軍事基地の建設を目指し、グリーンランド北東部で着工した軍事基地「キャンプ・センチュリー(Camp Century)」だ。雪原の下に張り巡らされた地下トンネルには研究所や病院、映画館、教会まであらゆる施設が整備されている。電力の供給は、小型の移動式原子力発電装置が用いられていた。

 だが、同基地からの汚染物質漏出の恐れを指摘する研究報告が8月、米専門誌ジオフィジカル・リサーチ・レターズ(Geophysical Research Letters)に発表された。基地跡に残存する廃棄物には、建築資材に用いられたPCB(ポリ塩化ビフェニル)、タンクに入った未処理の下水、当時の原子炉で使われていた低レベル放射性物質を含む冷却水などが含まれている。

「当時、これらの埋もれた廃棄物が再び表出するとは誰も思っていなかった」と研究を主導したカナダ・ヨーク大学(York University)ラソンド・スクール・オブ・エンジニアリング(Lassonde School of Engineering)のウィリアム・コルガン(William Colgan)助教は語っており、報告書にも、気温の上昇に伴い、基地跡の汚染廃棄物が環境中に放出される危険性があると記された。

■雪原下の見捨てられた基地

 最大200人の兵士を収容できるキャンプ・センチュリーは北極研究向けの施設として建設されたが、核ミサイル配備に向けた米国の極秘計画「プロジェクト・アイスワーム」の一環となる拠点でもあった。このプロジェクトについては米国とデンマークとの二国間協定で一度も言及されていない。

 ただ、雪原下に試験用の鉄道を敷設する計画まであったこの壮大なプロジェクトが実を結ぶことはなかった。プロジェクト開始から3年後、氷河の移動スピードが予想よりも速く、トンネルが崩壊する危険性があることが判明し、米国は1967年に基地を放棄した。米軍は基地周辺の氷床が溶けることは永遠にないと考え、原子炉は撤去したものの、地下35メートルに埋められた放射性廃棄物はそのまま放置した。その容量は欧州航空機大手エアバス(Airbus)のA320型機、30機分に相当するという。

 地下に埋もれた汚染物質を掘り起こすためには巨額の費用を投じる必要があることから、作業は氷が解けて基地が地表に露出してからになるとコルガン氏は考えている。