【9月25日 AFP】イタリア北西部にある中世から続く5つの漁村「チンクエ・テッレ(Cinque Terre)」をつなぐ海岸沿いの道は最近、ハイキングをしようにもなかなか前に進めない。

 紺ぺきの地中海(Mediterranean Sea)と断崖絶壁の岩肌に挟まれたでこぼこ道は、場所によっては道幅が30センチしかない。その上、地中海沿岸のこの一角がなぜそれほど多くの「一生に一度は訪れるべき旅行先リスト」に名前を連ねているのか自分の目で確かめようと、ますます多くの観光客が押し寄せているのだから、うだるように暑い8月の朝に歩行者渋滞が起きるのも当然だ。

 しかし、チンクエ・テッレの5つの村のうち、モンテロッソ・アル・マーレ(Monterosso al Mare)とベルナッツァ(Vernazza)を結ぶ大混雑の道を歩いていた中国人学生(18)は、何の不満も漏らさなかった。雲南(Yunnan)省から訪れたというこの男子学生は、家族と共に一休みしながら「言葉を失いますね、あまりに美しくて」とAFPに語った。「人が多過ぎるかって? そんなことないですよ。ご存知の通り、中国ではどこへ行っても人だらけ。(私たちにとってみれば)ここは人が少ない方だ」

 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)に登録されている人口約5000人のチンクエ・テッレを、昨年訪れた観光客は250万人。中国人観光客の急増は、観光客増加の理由の一つでしかない。

■訪問者数の制限計画

 イタリアでは、ベネチア(Venice)やフィレンツェ(Florence)、セレブが集まるカプリ(Capri)といった他の観光地も同様の悩みを抱えており、来訪者数に上限を設ける可能性をめぐる議論が始まっている。

 ベネチアのルイジ・ブルニャーロ(Luigi Brugnaro)市長も最近、「観光客と住民との間であつれきが生じつつある」と警鐘を鳴らした。

 チンクエ・テッレ国立公園のビットーリオ・アレッサンドロ(Vittorio Alessandro)園長は今年、広さ43平方キロメートルのチンクエ・テッレの訪問者数を管理する計画を発表して物議を醸した。海岸沿いの道への入場料は引き上げられ、鉄道でも地元住民より高い観光客向け料金が設定された。

この計画にメディアは反発し、人数制限を設けることによって観光客が道路端で追い返されたり、波止場であさり入りの「ボンゴレスパゲティ」ランチを楽しもうという人々が列車に乗れなくなったりするのではという懸念を盛んに書き立てた。

 だが今のところ、門前払いされた観光客は一人もいない。アレッサンドロ園長は、計画の目標はピーク時の観光客数を、対応が容易なレベルに減らすことだけだと説明している。現在は、観光客の到着と出発が一度に集中しないよう、電車の本数を増やす努力が行われている。