■「骨のひとかけらでも」

 ICMPは、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ(Sarajevo)に、年間最高1万件のDNA型鑑定が可能な研究所を持っている。さらに今後数か月のうちに、オランダ・ハーグ(Hague)に新しい研究所を開設したい考えだ。

 要請は増えている。シリアでの5年に及ぶ内戦と、それに伴う一斉避難により、シリア人6万人が行方不明になっているとみられている。

 ICMPには連日、親族の捜索協力を求めるシリア人から問い合わせが寄せられる。イタリア沿岸に打ち上げられた遺体の身元特定のため、イタリア当局との連携も開始した。

 国際刑事裁判所(ICC)のクエク・バンデルピュイ(Kweku Vanderpuye)上級法廷弁護士は、世界最悪の犯罪の黒幕の責任を問うためにも、遺体の身元特定は重要になると指摘している。「加害者は、遺体が見つからなければ罪にならないという考えで犯行に及んでいることが多い」からだ。

 哀悼をささげる墓さえないまま残された家族は、圧倒的な喪失感、交わせなかった別れの言葉、何十年たっても薄れることのない生々しい心痛にさいなまれ続ける。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、多数のイスラム教徒が殺害されたスレブレニツァ(Srebrenica)虐殺事件の被害者家族支援団体「スレブレニツァの母(Mothers of Srebrenica)」の代表で、自身も親族22人を失ったというムニラ・スバシッチ(Munira Subasic)さんは、「真実は集団墓地に隠されている」と話している。

 ICMPが最近開催したセミナーでスバシッチさんは、その数日前にスレブレニツァで亡くなったイスラム教徒の女性の話をした。女性は遺体が見つからなかった息子のことを、死に際まで思い続けていたという。

「骨の小さなかけらがたった一つでも見つかっていたら、どんなに幸運だっただろう。絹の布に包んで大事にしまっておけたのに、というのが、彼女の最後の言葉だった」(c)AFP/Jo Biddle