【3月21日 AFP】トルコ西部ディキリ(Dikili)近郊の海岸では20日未明、ギリシャに密航した移民をトルコに送還する欧州連合(EU)との合意発効に合わせて駆け込みでエーゲ海(Aegean Sea)渡航を試みる人々が殺到するのではないかとの懸念から、沿岸警備隊員が警戒態勢を敷いた。

 だが、静まりかえった暗がりの中に響くのは、エーゲ海を望む断崖に駐車した沿岸警備隊の白いワゴン車のルーフに設置された移民船探知レーダーの回転音だけ。懸念は杞憂(きゆう)に終わったようだ。

 このあたりの海岸は観光地としてトルコ人の間で人気だが、最近はギリシャを目指す移民たちの出港地として知られていた。「密航業者はいつも真夜中過ぎに、数百人を降ろしていく。ボートが出港するのはだいたい午前4時~8時ごろだ」。19日夜、AFPの取材に応じた地元ホテルの従業員は、海沿いの曲がりくねった道路に面した地点を指さして話した。

 この1年というもの、毎晩のように多くの男女や子どもたちが夜の闇に紛れ、小さなゴムボートにぎゅう詰めになって先も分からぬ航海へと旅立っていった。

 沿岸警備隊のレーダーによれば、ディキリからは18日に約500人のシリア人らが出航した。だが、それから24時間というもの移民は一人も現れていない。近くの未舗装道路には救命具やゴムボートを膨らませるポンプ、紙おむつ、子供用せき止め薬、靴片方、カエルのおもちゃなどが散乱し、移民たちが慌ただしく出航していった痕跡がうかがえた。

 ディキリからやや南方、やはり密航船の主な出航地となっていたチェシュメ(Cesme)も、合意が発効する数時間前から静まりかえっていた。(c)AFP/Nina LAMPARSKI