サッカー観戦で置いてけぼりされたファン、11年ぶりに帰国
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【11月4日 AFP】欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League)の試合を観戦したあと、置いてけぼりをくらった現在71歳の男性が、11年に及ぶ過酷な生活を経て、母国スイスに帰国していたことが明らかになった。
2004年8月、当時60歳だったロルフ・バントル(Rolf Bantle)さんは、欧州チャンピオンズリーグの予選でインテル(Inter Milan)と対戦するFCバーゼル(FC Basel)の試合を観戦するため、友人と一緒にミラノ(Milan)へ渡った。
インテルが4-1でリードし、試合終了まで残り5分としたところで、バントルさんはトイレに行ったが、この判断がその後の人生を変えるきっかけとなった。
トイレから戻ると友人の姿はなく、現金はわずか20ユーロのみで携帯電話も所持していなかったバントルさんは、ミラノで行き場を失い、路上での11年間を地元の人たちの好意に支えられて生き抜くことになった。
2004年にスイス警察の行方不明者リストに載ったバントルさんだったが、所在に関する情報はなく、2011年にはリストから削除されていた。
ガゼッタ・デロ・スポルト(Gazzetta dello Sport)が3日に伝えたスイスの週刊新聞シュバイツ・アム・ゾンターク(Schweiz am Sonntag)の報道によると、バントルさんは現在、故郷バーゼル(Basel)の年金受給者向けの施設で暮らしているが、ミラノで彼を支えた地元住民にとっては寝耳に水だった。
地元住民の一人は、「本当かい?彼については何も聞いていなかった。間違いなく死んでいると思っていたよ。ドイツなまりのあるスイス人のナイスガイだった」と語っている。
本当のファンがそうであるように、バーゼルがインテルに敗れたあと、バントルさんはインテルのライバルであるACミラン(AC Milan)のサポーターになった。
バントルさんと知り合いになった地元の学生は、小銭や衣類を提供してバントルさんを支援し、ときにはミランのカカ(Kaka)のユニホームまで贈ったという。
「彼はこの地域では有名人だった。(行方不明になった)サン・シーロ・スタジアム(San Siro stadium)の話はうわさされていたけど、本当かうそかは誰も知らなかった」
「彼は自分のことを話したがらなかった。でも彼のことは好きだったよ。誰もが食事やきれいな衣類を彼のために持っていったし、彼もできる限りみんなの手伝いをしていた」
当時学生だったある医者は、ガゼッタ・デロ・スポルトに対し、「彼にはかかりつけの医者なんていなかったから、私たちが彼の面倒をみました」と語っている。
バントルさんはシュバイツ・アム・ゾンタークに対し、「ビールを飲んで温まることができた。そしてある若者が寝袋をくれたので、命が救われたんだ」と語っている。
その後、スイス当局によって身元が特定されたバントルさんだったが、当初は母国への帰国を拒否していた。そしてバントルさんが大腿(だいたい)骨を骨折したため入院すると、スイス大使館はバーセルへの送還を命じた。
現在は屋根のある暮らしをしているバントルさんは、月300ユーロ(約4万円)の年金を受け取っており、「毎日午後にビールを数缶飲むことができる。そうさせてくれるんだよ」と語った。(c)AFP/Justin DAVIS