【10月8日 AFP】フィリピンで、ジャングルでのサバイバル術のインストラクターを務めるエドワード・セラーノ(Edward Serrano)さんは、同国先住民、アエタ(Aeta)の一人。小柄でカーリーヘアのセラーノさんは、AFPとの取材に応じ、200万年前の石器時代と同じように2つの石を合わせ打ち、器用に火花を木の削りくずで包み込んで火を起こしてみせた。

 高校を中退し、兵士や警官にマッチやライターを使わずに火を起こす方法を教えているセラーノさん。彼の「レッスン」には、ジャングルで道に迷った時の水の探し方や、どの葉や果実、種ならば安全に食べられるかといったサバイバル術も含まれる。セラーノさん自身は、こうした術を父親から教わったと話している。

 アエタの人々は、フィリピンに最も古くから定住していた民族として知られており、言語人類学的にも最も独特な存在だ。しかし、過去4万年にわたって営んできた狩猟採集生活の知恵は次第にその存在意義が失われ、独自の言語の大半も消えた。食料として狩りをしていたシカやイボイノシシ、野鶏(やけい)も姿を消し、これまでの生活様式は終わりを告げた。この現状についてセラーノさんは「先祖が当たり前のようにしてきたことの多くを、今の私たちはできなくなってしまった」と語る。

 セラーノさんの故郷は、首都マニラ(Manila)から車で約2時間の集落サパン・ウワク(Sapang Uwak)。「カラスの小川」を意味するこの集落は、ピナツボ山(Mount Pinatubo)の日当たりのよい丘陵地帯にある。バナナとタロイモを積んだ荷車を、水牛がゆっくりと引く未舗装の道と河川敷、そして森林──およそ1700人の人々が先祖代々受け継いできたこの土地で伝統的な暮らしを営んでいる。

 しかし、市場に作物を売りに行ったり、農作業や建築現場の仕事を探しに行ったりするために山を下りると、そこには大企業が建設を進めるテーマパークの工事現場が目に飛び込んでくる。