【7月27日 AFP】公衆の面前で小便をする、路上に唾を吐く、寺院の神聖な鐘を蹴飛ばす──金離れが良い中国人観光客の急増によって、タイでは低迷する経済が押し上げられている一方、そのマナーに対する批判も多く聞かれる。中国人観光客のそうした態度が無礼と受け止められ、怒りが募る中、タイ政府は今年、マナー違反を食い止めようと、中国語で書かれたマナー本、数千冊を用意した。

 6月にネット上でタイ人の怒りを買ったのは、バンコクの王宮(グランドパレス、Grand Palace)の敷地で小便をする少女の写真だった。ソーシャル・メディアのユーザーたちは、この少女は中国人だと主張し、中には人種差別的な内容のコメントも見受けられた。

 北部チェンライ(Chiang Rai)県にはホワイト・テンプル(White Temple)の名でも知られる寺院、「ワット・ロンクン(Wat Rong Khun)」があるが、この寺を建立したチャルムチャイ・コーシッピパット(Chalermchai Kositpipat)氏は、最近訪れた中国人の団体ツアー客のトイレマナーについて不満を漏らした。「ところかまわず排便する中国人がいて困ったので、タイでは規則を守らなければならないと説明してほしいと、ツアーガイドに頼んだ」。過去には、中国人観光客の訪問を拒否すると警告したこともあるというが、実際に禁止するのは思いとどまった。観光客の減少傾向に歯止めをかけようと取り組んでいる時に、中国人を締め出すことはしたくないという事情は、タイ当局と同様だ。タイで国内総生産(GDP)に占める観光業の割合は8.5%に上る。

 一方、2014年には約460万人の中国人がタイを訪れた。中国人観光客の1日当たりの支出額は平均5500バーツ(約1万9500円)と、欧州からの観光客の平均を上回る。今年、タイを訪れる中国人観光客の総支出額は56億ドル(約6920億円)に上る見込みで、硬直化した経済の立て直しに苦心するタイはこれを失うわけにはいかない。

 昨年、クーデターで全権を掌握したタイの軍事政権は、長年の同盟国である米国や西欧諸国から厳しい非難を浴びた。そうした中、新たな外交関係を模索するタイは、中国に接近しようとせわしない。昨年、タイと中国は農産物取引をめぐる新たな提携で合意。また中国は、タイの国土を交差する2本の鉄道の新設計画で、建設を請け負うことにもなった。両国の間では最近、ビザ発給要件が緩和された。中国で中産階級の国外旅行が増えていることも相まって、今年は一段と多くの中国人観光客がタイを訪れるものと予想される。

 タイ当局が、両国の対立の種は何であれ控えめに扱おうとするのも当然かもしれない。タイ観光庁のスリスダ・ワナピニョサック (Srisuda Wanapinyosak)東アジア支局長は「中国人観光客がタイで問題を起こしているということはない。良い観光客だ」と述べつつ「私たちは文化が異なるため、文化的誤解が生じることはあるかもしれない」とも認めた。(c)AFP/Marion THIBAUT