【5月1日 AFP】欧州連合(EU)の首脳や企業を対象とした米国のスパイ活動にドイツ政府が協力し、それについて独内務省が虚偽の報告をしたとして、アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)政権への風当たりが強まっている。

 この問題は、独情報機関の連邦情報局(BND)の関与が疑われることから「BND事件」と呼ばれている。識者らは、高い支持率を誇るメルケル首相はスキャンダルを乗り切るだろうと見込んでいるものの、メルケル氏側近のトマス・デメジエール(Thomas de Maiziere)内相にはメディアと野党から非難が集中している。

 内務省は4月14日、米国が欧州で行っていたとされる産業スパイ行為についても、またドイツの関与についても一切知らなかったと独議会に報告。これが議会を欺く行為だったかどうかが、問題の大きな焦点となっている。

 ドイツのメディアは、米国の情報機関がテロ容疑者らだけでなく、フランスに本社がある航空機大手エアバス(Airbus)や仏大統領府、欧州委員会(European Commission)に対してもオンライン通信や通話、その他の通信内容を傍受するようBNDに依頼したと伝えている。

 これを受けてエアバスは4月30日、報道に関する情報の提供を独政府に求めたこと、さらに「産業スパイの疑いで容疑者不詳のまま刑事告発する」姿勢も示した。

 保守系日刊紙ウェルト(Die Welt)は、スキャンダルの波紋が「首相にも及んでいる」と伝えた。一方大衆紙ビルト(Bild)は、かつてメルケル内閣で情報活動の監督責任を負う首相府長官を務めていたデメジエール内相の鼻を「ピノキオ(Pinocchio)」のように長く伸ばした加工写真を掲載した。

 2013年に米国家安全保障局(National Security AgencyNSA)に自身の携帯電話を盗聴されていたことが発覚した際、メルケル氏は憤りをあらわにしていた。おおむねメルケル氏支持の立場を取っているビルト紙だが、今回は同氏を「偽善的」と断じている。

 シュテフェン・ザイベルト(Steffen Seibert)首相報道官とデメジエール氏はいずれも、情報活動に関して政府が議会を欺いた事実はないと主張し、独議会の情報活動調査委員会が非公開で行う会合に秘密情報を提出すると約束している。(c)AFP/Frank ZELLER