【10月30日 AFP】凶暴な犯罪者は、生まれつきそうなのか、それとも子どもの頃の経験や環境によって作られるのか──。

 欧米の科学者らの研究チームは28日、暴力的な犯罪者に「著しく高い頻度で」みられる変異型の遺伝子2個を特定したとする研究論文を、英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン医学誌「モレキュラー・サイキアトリー(Molecular Psychiatry)」に発表した。

 心理学で長年未解決となっているこの問題に取り組んだ科学者らの中からは、複雑な脳の化学成分に作用する遺伝子が、影響のほぼ半分に関与している可能性を示唆する説も提唱されていた。だがこれまで、この説の裏付けとなるDNAの詳細な手掛かりは得られていなかった。

 今回の研究では、暴力犯罪および非暴力犯罪で服役するフィンランド人の受刑者約800人を対象に調査し、一般人との比較が行われた。その結果、「MAOA」と「CDH13」と呼ばれる2つの遺伝子の変異が「極めて暴力的な行動様式に関連している」ことが分かったという。

「非暴力的な犯罪者のグループでは、MAOAとCDH13のどちらに関しても、十分な顕著性はみられなかった。これは、今回の結果が暴力的な犯罪者に特異的であることを示している」と論文は述べている。

 研究チームは、薬物乱用、反社会性人格障害、児童虐待などの経験の有無といった環境的要因を考慮に入れたが、結果は変わらなかったとした。

 今回の論文について研究者らは、遺伝子変異の影響を説明することを目的とするものではないとしている。遺伝子の分子配列には、直接的または間接的に関与している遺伝子が他にも多数存在する可能性があるためだ。

 また、これら2つの変異した遺伝子の型(遺伝子型)は「かなり一般的なもの」と指摘。2つの遺伝子型を持つ人は、5人に1人の割合で存在するが、その大半は強姦、暴行、殺人などの行為とはまったく無関係だという。その一方で、今回の調査対象である暴力的犯罪者グループの中にも、これらの変異を持たない者もいた。

 論文の共同執筆者の一人、スウェーデン・カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)神経科学部門のヤリ・チーホネン(Jari Tiihonen)氏は、AFPの取材に「MAOAとCDH13の高リスクとされる遺伝子型の組み合わせは『通常の』遺伝子型の組み合わせに比べて約13倍のリスクを持っているが、それでも高リスク遺伝子型の人々の大半は、暴力的な重罪を犯すことはない」と語った。

 MAOA遺伝子は、依存症や快楽を経験する能力に関与する神経伝達物質「ドーパミン」の代謝に関連付けられている。一方のCDH13は「衝動の制御」に関与していると考えられており、注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連付けられている。