【10月7日 AFP】ノーベル賞の授与が、その科学的発見や功績から数十年を要する現状について、一部研究者たちの間から憂慮する声が上がっている──賞そのものが「無意味」となる恐れがあるだけでなく、高齢となった科学者が、長い間待ち望んだノーベル賞を受賞する前に他界してしまう可能性があるからだ。

 実際、このようなケースは2011年に生じている。ノーベル賞委員会(Nobel Committee)は同年、カナダ出身の生物学者ラルフ・シュタインマン(Ralph Steinman)氏に医学生理学賞を授与すると発表。しかしシュタインマン氏は、授賞式の3日前に死去していたことが後に判明した。

 ノーベル賞委員会は、授賞の判断を下した時点でシュタインマン氏は存命だったとして、賞を授与しているが、委員会の規定には故人には賞を授与しないという決まりがある。

 フィンランド・アアルト大学(Aalto University)のサント・フォルトゥナト(Santo Fortunato)氏は「この状況が続くなら、同じような事態が今後も発生するのは時間の問題。何らかの対策が必要だ」と指摘する。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載されたフォルトゥナト氏らの論文によると、授賞理由となる科学的発見から、実際に賞が授与されるまでの期間は長期化しており、この傾向が続くと今世紀末までには受賞者の平均年齢が、平均余命を超えることになるという。

 実際、昨年のノーベル物理学賞は、仮説が立てられてから半世紀余りを経たヒッグス粒子(Higgs boson)発見への功績に対して贈られた。

 しかしノーベル化学賞選考委員会のスベン・リージン(Sven Lidin)委員長は、2013年の物理学賞は選考過程の短縮がほぼ不可能である理由を示す良い例だとし、「私たちは、間違いなく新たな科学的知見に道を開いた人に対して賞が授与されるよう望んでいる。つまり、受賞までに時間がかかるのは当然で、一般的には、最初の発見からノーベル賞の受賞に至るまでには約20年かかる」と説明している。

 この問題についてフォルトゥナト氏は「故人にも賞を授与することも考えなければならない」と述べ、受賞者本人が死去してしまったとしても、「当人の発見が世間に認知されることはとても重要なことだ」と続けた。

 だが故人にノーベル賞を授与することで、同賞が持つ「科学を社会的議題として掲げる力」が失われてしまう可能性があるとリージン氏は指摘する。「認知度の低下につながる可能性があり、科学が今日実際に起きていることだという事実を見失ってしまうことになりかねない」と述べた。(c)AFP/Peter HARMSEN