<菅付雅信:新連載「ライフスタイル・フォー・セール」>第十二回:ライフスタイル先進都市、ポートランドの魅力と問題
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■快適過ぎるポートランドの問題点
しかし、活力のある若者が集結し、独自のビジネスを展開するポートランドであるからこそ抱えてしまう問題もある。写真集を中心とした出版社 “Nazraeli Press(ナズラエリ・プレス)”を経営するクリス・ピヒラー(Chris Pichler)、石渡真弥(Maya Ishiwatari)夫妻は、14年前にサンフランシスコからポートランドへ移住してきた。近年のポートランドを訪れる若者に見られる傾向について、夫妻はインディペンデント・ビジネスのやりやすさを彼らは求めているようだと述べる。
「ポートランドの経済は、他の都市とは全く違う動き方をしているんだ。大企業はナイキぐらいで、多くの人はフリーランスやアート関係の仕事をしている。求人も多いわけではないから、当然若者も就職より大学進学を選ぶ。ただ、ポートランドを訪れる大学生はウェブや機械工学などをやりたがらず、面白いビジネスを展開したいという志向が強い。“父親のように週5日で働く必要がない”という価値観が広まっている気がするね。今までのシステムとは違う生き方を、ポートランドの若い人たちは目指しているんだと思う。だからここではガーデニングや食事など、仕事の代わりに人生を充実させるライフスタイル重視の価値観が共有されやすい。これはポートランドに限った現象でもないけど、ポートランドではそれが顕著に現れているように感じるよ」(クリス)。
個人ビジネスを求めてポートランドに若者が集中し、都市全体の活力が生まれる一方、必ずしも移住者すべてが成功をおさめるわけではない難しさも存在する。
「ポートランドは独立したビジネスを行うには最適な環境だけれど、若者たちに過剰な期待させてしまう部分もある。仕事が充分にあるわけでもないから、スキルが足りないのにこの街で事業をはじめようとする若者たちは、すぐに路頭に迷ってしまう」(真弥)
先のジョン・ジェイ氏は、最近のポートランド・ブームに対して彼なりの懸念がある。何しろ毎週、日本からワイデンないしは彼のオフィスへの団体の訪問客が来るほど、日本から多くの人がポートランドに訪れているのだから。
「気をつけないといけないのは、クリエイティヴに携わる人にとって、この街が最適ではないということだよ。自然豊かな都市で、インディペンデントな文化もあるし、たくさん若者やクリエイターがやってくる。けれどクリエイティヴの人間にとって大切なことは、現状に満足せず常に変化し続けて、競争に負けないようにすること。例えば、ニューヨークには世界中から優秀なクリエイターが集まっている。自分より優秀な人間に勝つためにリラックスはしていられない。全クリエイターがそう考えているから、他の人より少しでも良いものを作ろうとし、結果的に最高のクリエイティヴがニューヨークで生まれる。その反面、自然豊かなポートランドの美しさは、競争に打ち勝つエッジを際立たせはしない。ポートランドは快適すぎるんだね。だからバランスをとることが大事だと思う。今いる場所に依存しないためにも、旅をすることはすごく大事。自分の知らない世界を見て謙虚になれるからね。クリエイティヴであるには、常に動いてないといけないんだ」(次回につづく)【菅付雅信】
■プロフィール
1964年宮崎県生まれ。法政大学経済学部中退。「コンポジット」、「インビテーション」、「エココロ」などを創刊し編集長を務める。現在は雑誌、書籍、ウェブ、広告などの編集を手がける。著書に「東京の編集」「はじめての編集」「中身化する社会」等がある。
■「ライフスタイル・フォー・セールス」過去記事一覧
http://www.afpbb.com/articles/modepress/3007611
■関連情報
・Stumptown Coffee 公式HP:http://stumptowncoffee.com/
・Courier Coffee Roasters 公式HP:http://www.couriercoffeeroasters.com/
・ワイデン+ケネディ 公式HP:http://www.wk.com/
・キンフォーク 公式HP:https://www.kinfolk.com/
・Nazraeli Press 公式HP:http://www.nazraeli.com/
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