【9月8日 AFP】西アフリカで猛威を振るっているエボラ出血熱をめぐり、一部の人々の間で、この感染症の存在自体を否定するという奇妙な現象が起きている──自分の家族や友人など身近な人が感染しているにもかかわらずだ。

 犠牲者の数が2000人を超える中、エボラ出血熱を「でっち上げ」と主張する一部集団により、医療従事者の作業には支障も出ているという。

 深刻な感染の拡大に直面している地域に約1か月間滞在した、セネガルのシェイク・アンタ・ジョップ大学(Cheik Anta Diop University)教授で著名な人類学者のシーク・イブラヒム・ニャンゴ氏は、この「エボラ否定」は想像以上に複雑な問題だと指摘する。「エボラ出血熱が存在しないと主張する人々は、『何か』に反抗している。彼らは、与えられるべき情報が与えられず、権力に操られていると感じているためだ」と説明した。

 現地で働く医師や看護師(多くは国際機関に所属)は、エボラウイルス以外にも、コミュニティーに深く根付いた『不信感』とも闘っている。そのなかには、ウイルスが欧米諸国によって作製されたものだとか、感染症のそのものが作り話という「風説」もある。

 8月には、リベリアの首都モンロビア(Monrovia)にあるエボラ出血熱患者の隔離施設が、「エボラなんて存在しない」と叫ぶ若者たちからの襲撃を受け、患者ら17人が逃げ出した。感染地域では、こうした事例がしばしば見られるという。

「彼らがエボラを否定する背景には何があるのかを考えないといけない。それが情報不足と感じていることなのか、あるいは予防策や医療行為に納得していないのか」(ニャンゴ氏)

 世界保健機関(World Health OrganisationWHO)の最新の統計によると、これまでの感染者は4000人を超え、死者は2000人以上となっている。

■植民地時代の遺産

 ニャンゴ氏は、国境の閉鎖は誤った対処法の一例だという。感染症リスクのある周辺地域の人々に誤った安心感を与え、地域全体に気の緩みを生じさせる可能性があるためだ。

「アフリカには、街やコミュニティーに迫る森林火災では、その出火元での対処が重要になるとの隠喩がある。火が自分の家に迫ってきたときに備えて、バリケードを作ったり水をため込んでおいたりしても、火を消すことはできない。国境線は植民地時代の遺産であり、人工的に引かれたものだ。そのために、夜間には多くの人が越境している」

 ニャンゴ氏は、医療的なアプローチだけでエボラ出血熱を封じ込めようとしても、「限られた成功」しか得られていないとみている。地元住民の感情を考慮しておらず、「病気だけを見て文化的背景を見ていない。それが、対策に対する反応がなかなか見られない理由の一つ」と続けた。

 アフリカの人々が、医療行為に効果がないと思っているわけではない。問題は、自分たちの土地に「新しい文化」を持ち込んで、「ああしろこうしろ」と言われることに対して不信感を持っていることだ。(c)AFP/Malick Rokhy Ba