【11月15日 AFP】米国で乳がんの環境的要因を探る約10年に及ぶ研究により、乳がんの起源について新しい重要なヒントを示す、意外な発見が複数もたらされたという報告が今月、米小児科専門誌「ピディアトリクス(Pediatrics)」に発表された。

 よく知られている乳がんのリスク要因には、思春期早発症や高齢出産、遅発閉経、エストロゲン補充療法、アルコール摂取、放射線被ばくなどがある。乳がんリスクのある遺伝子変異も突き止められているが、遺伝性のものは乳がん全体では少ない。

 米政府が7000万ドル(約70億円)を出資し、2003年に立ち上げられた「乳がんと環境に関する研究プログラム(Breast Cancer and the Environment Research Program)」を率いる米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)のレスリー・レインリブ(Leslie Reinlib)氏は「乳がんの80%は環境に起因するはずだというのが、われわれの立場だ」と述べる。

 同プログラムでは、乳がんにかかっていない米国の健康な少女1200人を対象に調査を行うチームと、実験マウスによって乳腺がんと乳がんの進行に発がん物質や汚染物質、食事が与える影響を観察するチームの二手に分かれて研究している。

 前者は04年に6~8歳だった米国の少女を対象に開始された。血液と尿の検査によって化学物質への暴露を測定し、環境暴露が思春期の始まりと、後には乳がんリスクにどのように影響するかを研究した。

 ただし、思春期前の少女を対象にしようとした当初の意図はすぐに崩された。少女たちの40%は、8歳までに思春期に達していることが研究初期に判明し、科学者たちを驚かせたのだ。後の研究により、思春期に達する時期は、1990年代に比べて6~8か月早まっていることが示された。

 最初の結果では「今回初めて、フタル酸類やビスフェノールA(BPA)、農薬が少女全員から検出された」という。研究チームは化学物質の広がりに驚いたが、意外なことに、一部のプラスチックは懸念されていたほど乳房の発達に影響がなさそうだというデータがもたらされた。「ペットボトルやプラスチック容器から浸出する化学物質であるフタル酸類と思春期の関連はあまり発見されなかった」とレインリブ氏は説明する。

 また調査対象となった少女たちのうち、隣接するオハイオ(Ohio)州とケンタッキー(Kentucky)州の2グループは、どちらも産業廃棄物で汚染されたとみられる水を飲用していたが、血液中の化学物質について重要な発見があった。フライパンの表面加工に使われるテフロンに含まれるペルフルオロオクタン酸(PFOA)の血中値が、ケンタッキー州北部の少女たちでは、最先端技術で浄水されたシンシナティ(Cincinnati)近郊のオハイオ川の水を飲用していたグループの3倍も高かったのだ。この結果を受けて同州北部でも2012年に新しい粒状活性炭ろ過技術が導入され、また少女たちの保護者には検査結果が通知された。

 化学物質は体内に長年残留する。科学者たちは、健康上の理由から良いとされる母乳を与えられた期間が長かった少女ほど、粉ミルクで育った少女に比べPFOA値が高かったことにも落胆している。

■マウス実験では成熟後の食事変更に効果なし

 さらに研究室では実験用マウスを用いた研究が行われた。ある実験では高脂肪食を与えたマウスを、発がん性があるとされる物質に暴露させ、その相互作用を観察した。すると、高脂肪食を与えられたグループでは、乳腺腫瘍がより速く発達したという。太ったマウスでは乳腺腫瘍内への血液供給がより多く、炎症度もより高く、免疫系の変化が示されていた。

 補足研究で、性成熟期に高脂肪食を与えたマウスの食事を、成体になってから低脂肪食に変えても、がんリスクは高いままであることも明らかになった。ミシガン州立大学(Michigan State University)微生物学・分子遺伝学研究室のリチャード・シュワルツ(Richard Schwartz)氏は「ダメージはすでに取り返しがつかない。このことが、人間も同じリスクにさらされていることを示すのかどうかは、確かでない」と述べている。(c)AFP/Kerry SHERIDAN