【11月5 日 AFP】ビニール盤やアナログ盤と呼ばれるアナログレコードの人気が、英国で復活している。この10年で最高の売れ行きを見せ、マニアから新しいファンまで、デジタル形式よりも音にライブ感があると、アナログ盤に夢中だ。

 ロンドンのソーホー(Soho)地区には、音楽ファンが指先を埃で汚しながら数あるレコードをさばき、目当ての1枚を探せる小さな店があちこちにある。そんな店の一つ「サウンズ・オブ・ジ・ユニバース(Sounds of the Universe)」のニール・バーニー(Neal Birnie)さんは「彼らはサウンドが、ジャケットが、そして何か特別な物を買っている感じが好きなんだ」と言う。

 英国レコード産業協会(British Phonographic Industry、BPI)によれば、同国では今年すでに55万枚のアナログ盤が売れた。今年末までには70万枚に達する見込みで、2003年以来最高の売れ行きだ。

 販売されている音楽フォーマット全体にアナログ盤が占める割合はわずか0.8%未満だ。しかし、このデジタル音楽全盛の最中、一度死に絶えたかに見えたアナログ盤は、生き延びているどころか復活の兆しを見せている。

 古いレコードの再リリースだけではない。今年英国で最も売れたアナログ盤は、フランスのエレクトロ・デュオ、ダフト・パンク(Daft Punk)のヒット曲「ゲット・ラッキー(Get Lucky)」が収録された「ランダム・アクセス・メモリーズ(Random Access Memories)」だ。またデヴィッド・ボウイ(David Bowie)やポール・マッカートニー(Paul McCartney)なども新曲をアナログ盤でも出している。

 アナログ盤復活の最大の要因は、ダウンロードするデジタル音楽よりも味のあるサウンドが聴けることだ。デジタル音源ではノイズがない分、アナログ盤の「温かみ」もない。

 ロックの大御所ニール・ヤング(Neil Young)は昨年「俺たちはデジタル時代に生きている。そして不幸なことに、それは音楽を劣化させている」と不満を漏らした。

 他方、音楽好きの中でもレコード人気の復活になびいていないのは、DJたちだ。ロンドン在住のフランス人DJ兼ミュージシャンのクリストフ・ブリリアン(Christov Brilliant)さんは「大物DJでアナログ盤を使う人間はもういない。サウンドはいいかもしれないが、僕たちはデジタル時代に生きている。デジタルは色んな可能性を広げてくれる」と語る。

 音の良さはさておき、英国の音楽批評家ピート・パファイデス(Pete Paphides)氏は、レコード人気の復活はスローフードのようなトレンドかもしれないと考える。同氏は英紙ガーディアン(Guardian)に「レコードを買う体験から得られる喜びは、どれだけの時間と手間を費やしたかに比例する。袋に入ったレコードを持ってバスに乗り、家に帰るまでの時間。どんなサウンドだろうかとわくわくする期待感。見た目や感触、その匂いまでもがすべて、プレーヤーにレコードを置く前に得られる喜びなのだ」と書いた。(c)AFP/Alfons Luna Daniel