【10月27日 AFP】スペイン国有鉄道レンフェ(Renfe)で鉄道修理工職を務め上げたフランシスコ・マルコス・ガジェゴ(Francisco Marcos Gallego)さん(80)。引退後は妻と2人で悠々自適の生活を送れるものと思っていた。しかし、それどころかフランシスコさんは失業した息子とその子供である孫たちの生活を支えることに苦心している。

■頼れるのは親だけ

「たとえ生活が苦しくても、私が生きているうちは息子が路頭に迷うことがないように住宅ローンを払ってやるんだ」と、フランシスコさんは固く決意している。フランシスコさんは首都マドリード(Madrid)の労働者階級地区バジェカス(Vallecas)にあるベッドルーム2部屋付きのアパートメントに妻のマリア(Maria)さん(82)と住んでいる。夫婦2人合わせて毎月1300ユーロ(約17万5000円)になる年金収入は、息子のミゲルさん(49)一家を養う費用として消えていく。ミゲルさんは2009年以来、常勤の仕事がなく、10代の孫たちもまだミゲルさんと同居している。

 2008年の不動産バブル崩壊が引き金となった経済危機の余波が残るスペインでは、失業給付が底を尽き、住宅ローンの支払いが滞る中、何とか暮らしていくために退職した親に頼る家庭が増えている。同国のロビー団体「年金受給者・退職者民主連合」によれば、スペインの4世帯に1世帯余り(約27%)が引退した家族の収入のおかげで生き延びている。

「頼れるのは親しかいなかった。もし両親がいなかったら僕は…」と話すミゲルさんをさえぎるように母親のマリアさんが言い放つ。「路上に放り出されてたわ」。さらにマリアさんは「今は2家族の生活を支えるので大変。私たち自身と息子たちとね」と付け加えた。

 前妻と離婚して子ども3人を引き取ったミゲルさんは機械工として23年間働いてきたが、4年前に失業した。その後は26.3%の失業率に苦しむ不況下のスペインで、かろうじて臨時雇用の仕事を見つけて食いつないできた。

 だが2011年以降はそうした仕事さえも干上がり、今は失業手当の受給資格が切れた求職者に支給される月400ユーロ(約5万4000円)の手当で、どうにかやっている。そして毎月、求職者手当が底を尽くと、食事をとるために16歳の息子と13歳の娘を連れて両親の家を訪れる。長男は21歳になるがミゲルさん同様やはり仕事がなく、働いているガールフレンドと暮らしている。

 ミゲルさんも両親に対しては申し訳なく感じている。「2人とも、これまでずっと馬車馬のように働いてきて、まだ苦労しなきゃならないなんて…今この国を救っているのは年金受給者たちだ」

■年金にも緊縮財政の影響が

 マリアノ・ラホイ(Mariano Rajoy)首相は2011年の選挙戦で年金を削減しないと約束している。しかし首相は今年、年金支給額の物価スライド制を廃止する改革を実行した。政権は14年の年金増額を0.25%と提示しているが、これは欧州委員会(European Commission)が予想するインフレ率0.8%を下回る。

「政府は嘘をついた。年金は守ると約束したのに全部嘘だった。結局、搾り取られるのは困窮している人たちなんだ」とミゲルさんは憤る。

 マドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University)のホセ・アントニオ・エルセ(Jose Antonio Herce)教授(経済学)は、「年金受給者は痛みを強いられるだろう。しかし平均寿命が延びているので改革しなければ年金制度は立ち行かなくなる」と説明している。

 マリアさんは「お先真っ暗よ。もう、こんな年だし、この先を見届けられるかどうか。見届けたいとも思わないけど」と言い残すと、耐えがたいといった面持ちで部屋を出て行った。(c)AFP/Ingrid BAZINET