【1月12日 AFP】光の都パリ(Paris)──世界の首都の中でも有数の観光都市だが、外国人観光客らはその輝きに魅了される以上に、粗暴で無愛想、高慢なパリっ子たちにショックを受けることになる。

 パリに到着する旅人たちの多くが最初に目にするシャルル・ドゴール空港(Charles de Gaulle Airport)は2011年、米CNNのブログで世界最悪と評された。ウサギの穴のように入り組んだ構造、汚いトイレ、そして何よりも「横柄な職員の態度」がその理由だ。

 パリっ子たちが高慢な態度をとるのはよそ者に対してだけではない。パリ市民はお互いに対する態度も悪く、ウエーターは客をごみのように扱うと言われている。

 パリで精神科医として働き始めて30年になるという日本人医師は、「パリ症候群」と呼ばれる症状について話している。パリは気品があり洗練された都市とのイメージを抱く人々は、街に着くなり、それとはかけ離れた現実に直面するのだという。「パリでこれほどまでに攻撃的で冷たい『歓迎』を受けるなどとは予想もしていなかった彼らは、恐れや不安に襲われるのです」。外国人だけでなく、他地域から訪れたフランス人の間にも見受けられるという。

 市当局はこれまで、何度もマナー向上キャンペーンを試みてきた。公共交通当局による最新の取り組みでは、動物を描いたユーモラスなポスターが、フランス国鉄(SNCF)や、パリ交通公団(RATP)のバスやメトロ(地下鉄)に登場した。混雑したバス車内で携帯電話に向かってしゃべりまくるめんどり、通勤列車に駆け込み乗車しようと突進するバッファロー、車内で軽食を食べ散らかすイボイノシシなどを描き、公共マナー向上を訴える。

■悪いマナーは「フランス的」

 フランス国鉄のギヨーム・ペピ(Guillaume Pepy)会長によれば、公共マナーの欠如は「非常にフランス的な問題」で、パリ市内にとどまらないという。フランス国鉄は今後、職員100人を新規に雇い、車内での喫煙、向かいの座席に脚を乗せる行為、備品の破壊行為など、乗客の悪いマナーを注意させる予定だという。

 一方でバス運転手の男性は、最悪なのは深夜バスの乗客だと話す。「つばを吐いたり中指を立てたりなどは日常茶飯事。車内でも平気で酒は飲むしマリフアナも吸う。脚を座席に投げ出してね」

 このようなパリの悪印象は昔からあったわけではない。19世紀の米著述家トーマス・ゴールド・アップルトン(Thomas Gold Appleton)は「良い米国人は死してパリに行く」との言葉を残している。

 だが社会学者のドミニク・ピカール(Dominique Picard)氏は、現代のフランスでは「無礼な振る舞いが増えていると、誰もが不満を口にする。それも、あらゆる社会階層でだ」と指摘する。

 仏ニュース週刊誌マリアンヌ(Marianne)は、パリ市民たちの粗暴さの原因はストレスにあるとしている。郊外も含め1100万人以上が暮らすパリでは生活ペースが速く過密が進んでおり、他の地域と比べて通勤時間や勤務時間が長く、市民にかかるストレスが大きいと同誌は指摘する。

 パリ交通公団が発表したアンケート結果によると、ここ1か月の間バスや地下鉄の中で他人の無礼な言動を目撃した人は97%に上ったほか、驚くべきことに他の乗客に対して無礼を働いたと認めた人も63%に上った。この結果を受け、パリ交通公団は乗客らに対し「通勤中にはお互い笑顔を交わす」ことを呼びかけるキャンペーンを開始した。

■「文化の違い」が誤解を生んでいる?

 だが、誰しもがパリ市民を非難しているわけではない。

「私は、何年も前からフランス人は不親切ではないと主張してきました。人々がそう感じるのは、単に文化の差を理解していないからです」と語るのは、「ボンジュール、パリ(Bonjour Paris)」というウェブサイトを運営する米国人、カレン・フォーセット(Karen Fawcett)さんだ。

 例えば、フランスの伝統では、エレベーターや店、公共交通機関の車内などで、他人と軽く目を合わせただけであいさつを交わしたことになる。また同様に、フランスでは誰かにものを尋ねる前に必ずアイコンタクトをとらなければいけないという決まりがあるが、観光客には必ずしも浸透していない。

「(米ニューヨークの)マンハッタン(Manhattan)に暮らし働く人たちと同じく、パリっ子も知らない人にいちいち感じよくするわけではない」とフォーセットさんは書いている。「フランスに降り立つなり、親切に迎えられなかったと騒ぎ立てる前に、フランスの文化や慣習を知っておくのは自分たちの責任です」

 一方、独自のマナー向上対策を取り入れる人たちもいる。

 夏のジャズフェスティバルで有名な仏南西部の町マルシアック(Marciac)でカフェを経営する男性は、今年から「無礼税」の導入を始めた。注文する際、「お願いします」と言わなかった客には、通常1.8ユーロ(約210円)するエスプレッソの値段が2ユーロ(約235円)に上がるという。(c)AFP/Samir Tounsi