【1月27日AFP】渋滞と喧騒にあふれるインドネシアの街角――裕福な人々がエアコンの効いた米コーヒーチェーン大手スターバックス(Starbucks)店内でラテをすする一方、貧しい人々は「スターバイクス(Starbikes)」に駆け寄る。

 インドネシアの大都市ならばどこでも見かける「スターバイクス」は、自転車で街中を回っているコーヒー売りだ。使い捨てカップに個別包装のインスタント・ジャワコーヒーを入れ、後部荷台にくくりつけた魔法瓶からお湯を注ぐ。

 スターバックスなどの国際チェーン店で買うとコーヒーSサイズで約3ドル(約230円)する。2億4000万人のインドネシア国民の大半にとっては、1日の賃金を上回る価格だ。「スターバイクス」なら、その10分の1の値段で飲める。

■ペダルこいで貧困抜け出せ

 無許可の商行為として時に警察に追い掛け回されながらも、「スターバイクス」の行商人たちは東南アジア最速で急成長するインドネシア経済の最底辺で、ビジネスをしている。貧しい者たちで作る非公式なフランチャイズ・チェーンを通じて、貧困から脱却しようと日々ペダルをこいでいるのだ。

 多くの行商人たちと同じく着古したTシャツにサンダル姿のサンバンさん(28)は、1年前にジャカルタ(Jakarta)に出て来るまでは農民だった。「フランチャイズ・エージェント」の1つに「事業立ち上げ料」として150ドル(約1万1500円)を支払い、自転車と魔法瓶を入手。お湯の手配やコーヒー、プラスチック・カップの経費として月30ドル(約2300円)をエージェントに収め、差し引いた収入は月々平均100ドル(約7700円)前後になる。

 通常、事業立ち上げ時にエージェントから借りた資金は半年程度で返せるという。エージェントは自宅を仕事場にしていることが多く、地方出身者が中心の販売員たちに最低限の宿泊場所を提供していることもある。

 メルセデスのリムジンから降りて来たタクシー運転手のJunarsahさん(44)は、「金持ちはスターバックスへ行く。私みたいに貧乏人はスターバイクに行く。安い、早い、美味しい。幸せだよ」と、にこやかに言いながらコーヒー1杯とたばこ2本で30セント(約23円)を払った。

■競合ではなく共存

 しかし、自転車を使ったコーヒー売りも数が増え、競争が激化している。商売を続けるには、あらゆる工夫が欠かせない。「常連のお客さんには携帯番号を教えてあるんだ。いつでも呼んでもらえるようにさ」と説明しながら、サンバンさんはノキア(Nokia)の最新型携帯を触る。「オフィスの中にだって手数料なしで持っていくよ。全て売上げを伸ばすためだ」

 サンバンさんの顧客の大半は、給料の高くない会社員や学生、タクシーの運転手。それから、パーム油や木材といった儲かる事業で一財を成した中産階級や富豪たちの家や仕事場を掃除し、警備し、日常の世話をしている大勢の労働者たちだ。

 競争は厳しいが、コーヒー売り同士は仲が良い。街の各所に共通の休憩場所を持っていて、一緒にタバコを吸ったり食事を取ったりしている。警察の取り締まり情報もここで交換し、注意し合う。

 ジャワ島では、2年前に自転車の販売員たちが登場するまで、コーヒー売りは足で歩いて売る行商人しかいなかった。しかし、今も自転車の販売員たちは、歩くコーヒー売りたちの商売を奪わないよう、彼らから近すぎるところでは自転車を止めないよう気を付けている。

 ジャカルタに数あるスターバックス店舗の店長の1人は「当社では、私どものカフェでコーヒーを片手に語らい合うお客様方に、バラエティー(あるメニューと)と快適さを提供している。太陽の下では、それほどくつろいでいただけないでしょう」と言う。

 だが、多くのインドネシア人にとっては、カフェ・ラテやカフェ・マキアートは想像の中だけで口にするものだ。渋滞の中をすり抜けていく「オジェク」と呼ばれるバイクタクシーの運転手、ハリョノさんは嘆息して言った。「もちろん、あんなしゃれた高いコーヒーを、ショッピングモールの中で飲みたいよ。けれど、あれ1杯分のお金で1週間食べられるんだ」 (c)AFP/Arlina Arshad