【3月2日 AFP】世界で最も広く使用されている除草剤の1つ、アトラジンが、カエルの化学的去勢を起こし、これが世界的な両生類の個体数減少の原因となっている可能性があるとする論文が、1日の米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)のウェブサイトに掲載された。 

 米カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)の研究チームは、アトラジンが検出された土地の年間アトラジン濃度と同等のアトラジンの中で生育させるオスのカエル40匹と、アトラジンの中で生育させないオスのカエル40匹で、成熟期の生殖能力を比較した。

 その結果、アトラジンの中で生育させたカエルの90%で、テストステロン濃度が低く、生殖腺が小さく、喉頭部が雌性化され、繁殖行動が抑制され、精子の生産量が減り、受精率も低下することがわかった。

 さらに驚くべきは、アトラジンの中で生育させたカエルの残り10%がメス化してオスと交尾し、産卵したという事実だった。そして、こうした卵から生まれた幼生はすべてオスだった。

 これまでの研究では、アトラジンがゼブラフィッシュとヒョウガエルを雌性化し、オスのサケとカイマントカゲで精子の生産量を著しく減少させるとした結果が報告されている。

■進まぬ使用規制、収量増もその一因

 アトラジンは除草剤として、農業、特にトウモロコシ、ソルガム、サトウキビの生産において世界中で広く使用されている。欧州連合(EU)はアトラジンの使用を禁止しているが、アトラジンが収量増に大きく貢献することもあり、EUの決定に従っている国はごくわずかという指摘もある。

 米環境保護局(US Environmental Protection AgencyEPA)は4年前、両生類の成育に対するアトラジンの影響に関するデータが不十分として、使用禁止化学物質としての指定を見送っている。

■雨となって1000キロ離れた場所へも

 米国だけで、年間約3600万キログラムのアトラジンが農業で使用されており、約23万キログラムのアトラジンが雨粒に含有されて地上に降りそそいでいるという。

 論文は、「アトラジンは、それが使用された場所から1000キロ以上離れた場所へも雨のかたちで運搬され、その結果、原始の生態系が残る手つかずの場所にも汚染が広がっていく可能性がある」と指摘している。(c)AFP