【8月26日 MODE PRESS】スペースコンポーザーの谷川じゅんじ(Junji Tanigawa)氏のあたまの中を、毎回違ったアプローチで紐解いていく連載企画第三回目の題材は、六本木ヒルズの10周年を記念して開催されたLOVE TOKYO SUMMER 2013 ROPPONGI HILLSでのキッズワークショップのシンボルプログラム「KIDS FUTURE LAB.」。

 音楽家・映像作家である高木正勝(Masakatsu Takagi)氏による「絵を描くように作曲しよう」、インタラクティブアート分野で作品制作を手掛けるアーティスト・チーム、plaplax(プラプラックス)による「ふしぎな平行動物をつくろう」、親子を対象にしたワークショップなどを行うグループ、ハハコラボの「ひみつの地図をつくろう!」が、3日間に渡って開催された。コンセプトメイキングに秘められた、「街の将来」、「教育」、そして子どもたちが担う“創造性豊かな未来”について語ってもらった。

■語り手:谷川じゅんじ氏

− 街のこれから=子どもたちの未来

 森ビルが発行しているHILLS LIFEという雑誌の特集「街の新しい使い方」で、「街のあたらしい“物語”をつくろう」という対談があったんです。表参道という街について話をする中で、「子どもたちの学び」というテーマがでてきた。街を考える時に、今はこうだけどこれからどうなるのか、という視点が常に語られがちですが、実は、今の時代を生きている子どもたちがどんな大人になって、どんな社会を作っていくのかが「街の未来」なんじゃないかと。

 そんな中、六本木ヒルズ10周年のプログラムとして、子どもたちの夏休みを六本木ヒルズ使って毎日思い出を作ろう、という企画の準備が進んでいました。そのシンボルプログラムを「学び」の領域から考えたいということで提案したのが「KIDS FUTURE LAB.」です。六本木ヒルズというのは、訪れるお客さんも含めて、ある種の日常と非日常が混在した複合都市になっている。そんな街の中にクリエイションを組み込んだらどうなるのかという発想で、言わば、こどもたち×アーティストで、一緒に作り上げる世界に一つしかないPOP UPインスタレーションをやってみたかったんです。

− 体験が生み出す記憶

 まず「子どもたちと一緒に未来を感じたり、思ったりする」ものをやりたいと思いました。僕らのまわりにはクリエイターやアーティストと呼ばれる人たちが沢山いますが、彼らが日々仕事をしている領域と日常の生活をしている子どもたちとは直接的な接点はあんまりないですよね。

 僕の仕事の軸とも言える、期待と印象と記憶の連鎖。それを今回は、空間や装飾的なことでなく、「場」をつくり、アーティストや子どもたちが集まり、そこで生まれる体験がどう芽吹いていくかに向けたわけです。もちろんすぐに芽吹くわけではないけど、参加する小学生たちは15年もすれば社会に出てくる。幼少期の体験から未来をチューニングしていく人も沢山いるし、何がきっかけになるかはわからない。子どもの頃にどんな体験をして、どんな記憶がその子の中に根付くかということこそが、創造の畑をつくる肥だと思うのです。

 畑が肥えてないと良い作物はできない。良いワインの作り手はテロワールを言うし、米農家も土だと言う。 穫れた収穫物に目は行きがちだけど、その実がなる土壌がホントは大事。学びも一緒。その時その瞬間なにを学び生み出したかに目は行きがち。例えば受験とかテストの点数とか。学歴は一般的なベンチマークだけど、本当は何を学んで、それがどのように根付き芽吹いて、新しく何を生んだのかということの方が大切なことはみんな感じてる。そういった後天的に与えられる知恵やきっかけが芽吹きは、子ども時代にどんな土壌を作れたかが大切だと思います。樹木の大きさは根っこの大きさで決まる。僕自身がものを作る仕事をしているからこそ、その中身のことが近年とても気になります。

− 知恵の時代と創造性

 これからの日本を考えると、「知恵」が大切な時代になると僕は思っていて・・・。「知る・恵む」という言葉の通り、自分が、内在するものを誰かに分けたり伝えたり、誰かのために使ったりすることで、それが活きてくるというような「知恵の時代」になってくるだろうと。

 日本の今の教育をみた時、「覚える」ことに関してはかなり高いレベルにある。一方で、こと違う文化や教育を受けた世界の人たちと対等に意見を交わし、何か新しいものを生み出そうとした時に、そこには自分が覚えていることの引き出しだけで向き合っても答えにならないものが沢山あるわけです。なぜなら、学んできた前提が違うから。前提から積み上げてゴールを目指すのでなく、目的を共有した上でお互いにどう進んでいくのかという組み立てをしなくては、異なるカルチャーを持った人たちと構築的な関係をつくるのは難しい。それこそがコミュニケーション能力であり、創造するということ。1を10にする経済合理性に基づいたビジネスモデルは非常に多いですが、これは原始的な0から1を生み出すことが今一度大切にされる時代が来る気がするんですよね。

 この今回のワークショップでは、子どもたちに「0から1を生み出す」体験をさせてあげたかった。1を10にすることは、これから沢山学ぶ機会があるし、その子が選んだ道によって変わってくる。もちろんそれは非常に大切な価値ですが、日本の未来を考えた時には、0から1を生み出す人がもっと増えた方が良いと思うんです。

−「飛び出す絵本」との自然なつながり

 JTQ10周年アニバーサリーブック(Junji Tanigawa, The Space Composer)には、POP UPになっているページがあって、実はその原型は、僕が小学3年生の時に書いていた「こどもにっき」なんです。当時の民芸館やサーカスに行ったとき、熱を出したとき・・・。毎日の出来事をわざわざ飛び出す絵本にしたのは、みた人が喜んだり驚いたり、あるいは褒めてくれて、自分もそれが嬉しかったから。ブック・デザインを手掛けてくれたテセウス・チャンに、この日記を見せたら「変わらないな!」と。なぜなら40年近く経った今、POP UPで来た人を驚かす仕事をしているからだと言われました。今思うと、期待と印象と記憶の循環という考えの種が、この頃、既に芽生えていたのかなと。そこに色々な体験価値を親が与えてくれたから、現在のものを作る仕事に進めたのかもしれない。そういう意味で、今回のキッズワークショップは、ロケーションもそこにいる人も違うけれど、自分自身の追体験でもあるんです。この絵本と今回のワークショップは、とてもシンプルで、自然に繋がっているんです。【山口達也】
(c)MODE PRESS

<インフォメーション>
参考動画:谷川じゅんじ「こどもにっき」