【10月9日 AFP】米国での移民取り締まりに言及したカントリー歌手の楽曲が、当局の神経を逆なでした──。

国土安全保障省(DHS)が問題視したのは、グラミー賞受賞歴を持つ人気ミュージシャン、ザック・ブライアンさんの未発表曲だ。退役軍人でもあるブライアンさんは、保守層にも支持者が多いが、SNSで公開した楽曲の一部で、移民・関税執行局(ICE)の職員や警察が「ドアを破って押し入る」と歌い、同省の反発を招いた。

DHSのクリスティ・ノーム長官は右派系ポッドキャスターの番組で、「法執行機関だけでなく、この国に対しても極めて無礼だ」と批判。長官は楽曲の一部しか聴いていないとされる。

問題の歌詞は「バッドニュース」という楽曲の一節で、ブライアンさんがインスタグラムに投稿した。

「俺の仲間はみんなろくでなしだけど、それが俺のすべてだ。筋書きを見失った世代の物語さ。警察が来たってさ、あいつら偉そうだよな。そしてICEがドアをぶち破って押し入ってくる」

「中指は上がり続け、止まらない。悪い知らせだ――赤、白、青が色あせていく」

ブライアンさんは7日、当局の批判に反論し、曲はむしろ自国への愛を表現したものだと主張した。

「これを攻撃と捉えるのは、私たちがどれほど分断しているかを示す証拠だ」とインスタグラムに投稿し、「残りの歌詞を聴けば、左右両陣営に向けたメッセージだと分かる」と説明した。

海軍での従軍経験を持ち、両親も退役軍人というブライアンさんは、「左翼でも右翼でも、私たちは同じ一羽の鳥であり、米国人だ。はっきり言うが、私はどちらの過激な側にも属していない」と強調した。

この騒動は、トランプ政権とポップカルチャー界の対立が再び表面化した形だ。

先週には、プエルトリコ出身の人気歌手バッド・バニーさんがNFLスーパーボウルのハーフタイムショーでヘッドライナーを務めると発表され、当局から反発の声が上がった。ノーム長官は、取り締まりのためにICE職員を会場に配置すると発言したが、チケット価格は高騰しており、多くの不法移民には最も安価な席すら手が届かない。

トランプ大統領が選挙公約に掲げた「米国史上最大の強制送還」を実現するため、ここ数か月、全米で多数の移民取締官が不法移民の摘発を強化している。

ICEの強制捜査は一部のトランプ支持者から歓迎される一方、過剰に暴力的で、標的があいまいだとの批判もあり、肌の色や話す言語だけで人々を狙っているように見えるとの指摘も出ている。(c)AFP