【8月3日 AFP】ドナルド・トランプ米大統領の大型減税を盛り込んだ法案の中に、ワシントン近郊ににある国立航空宇宙博物館から象徴的なスペースシャトル「ディスカバリー」をヒューストンへ移送するという、あまり目立たない条項が含まれている。

しかしこの計画は現在、法的な不確実性に直面している。同博物館を管理・運営するスミソニアン協会は、議会には自分たちが私有財産と見なすものを譲渡する権限がないと主張しており、輸送や財政面の課題も考慮する必要がある。

独立した存在でありながら、多額の連邦資金で賄われているスミソニアン協会は1日、AFPの取材に対して、同協会が「ディスカバリーを所有し、米国民のために信託しています」「2012年、米航空宇宙局(NASA)はシャトルの『すべての権利、所有権、利益』をスミソニアンに正式に譲渡しました」との声明を出した。

ディスカバリーは、年間数百万人が訪れる博物館の「目玉展示」のひとつだという。

テキサス州選出の共和党ジョン・コーニン上院議員が、ディスカバリーを名指しして「スペースシャトルを故郷へ戻す法案」を今年4月に提出したことに端を発したこの動きは、当初停滞していたものの、7月4日に署名された法案「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」に組み込まれる形で成立した。

法案が可決したことで移送に8500万ドル(約125億円)が割り当てられたが、超党派の議会調査局は費用が3億2500万ドル(約479億円)に達すると試算し、さらにNASA長官がNASA以外の機関に対してどこまで権限を持つかは「不明確」だと指摘している。

法案の文言は上院規則に従って修正され、ディスカバリーの名前は直接言及されておらず、「宇宙船」とだけ記されているが、対象がディスカバリーであることは明白だ。

現在NASA長官代理を兼任しているショーン・ダフィー運輸長官は、どの宇宙船を移送するかを30日以内に決定するよう求められており、その期限は8月3日となっている。

■技術的、法的に大きな課題

ディスカバリーの移送には技術的な障壁が山積している。退役シャトルを運搬するためにボーイング747が2機改造されたが、1機が博物館展示となり、もう1機はすでに運用停止となっている。

残された選択肢は陸上か水上での輸送だが、宇宙歴史家でcollectSpace.comの編集者であるロバート・パールマン氏は、「ポトマック川への最寄りの水路入り口は30マイル離れている」と述べ、スペースシャトルと必要な台船には浅すぎる可能性がある。

パールマン氏は水上輸送には巨大な密閉型台船が必要になるとしており、米国政府は軍が管理する1隻しか所有していない。民間機関への貸与にはさらなる議会承認が必要で、新たに建造することが代替案となる。

退役シャトルの輸送を担当した元技術者は、総費用が10億ドル(約1474億円)に達する可能性を指摘している。

一方で、博物館法の専門家であるニコラ・オドネル氏はAFPに対し、スミソニアン協会が正式な所有権を保持している場合、「ダフィー長官代理や連邦政府の誰も、ディスカバリーを移送する権限を持っているとは思えない」と述べた。

政府は公共利用のために私有財産を収用する、「収用権」を発動することもできるが、正当な市場価値での買い取りか訴訟を起こす必要がある。

スミソニアン協会は法廷闘争を望まない可能性が高く、法的には独立機関であるものの財政的には連邦資金に依存しているため、政治的には脆弱(ぜいじゃく)であるとオドネル氏は指摘している。(c)AFP