【9月25日 AFP】5年前にスノーモービルの事故で脊髄を損傷し、下半身不随になった米国人男性(29)が、埋め込み型の医療電子機器の助けを借りて再び歩けるようになった。男性は事故によって脳からの信号を下半身に伝える神経が完全に遮断されていたが、この機器は電気パルスによってその神経を刺激する仕組み。下半身まひの患者が埋め込み型機器によって歩行したのは初めてとされる。米ミネソタ州の医療機関が24日、米医学誌ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)で発表した。

 同州にあるメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の医療チームによると、男性は2013年にスノーモービルで衝突事故を起こし、脊髄中部を損傷。下半身が完全にまひし、腹部から下の感覚を失って動かすこともできなくなった。

 チームは2016年、男性の脊柱に単3電池ほどの大きさのワイヤレス医療機器(インプラント)を埋め込む処置を実施。男性は前輪駆動式の歩行器を使用しながら、この機器を通じた脳からの指令によって体重移動や平衡維持を行い、サッカー場のピッチの長さほどの距離を歩いた。これまで下半身まひの患者には不可能と考えられていたことだ。

 研究を主導した神経外科医のケンダル・リー(Kendall Lee)氏は「下半身がまひした後でも、損傷した脊髄から下の神経経路が機能し得ることが分かった」と研究の意義を説明した。

 男性は、埋め込んだ機器の電源を入れてから数週間以内に事故後初めて歩行したが、その時はまだ歩行器の補助を必要としていた。しかし驚くべきことに、さらにリハビリテーションと理学療法を続けた結果、男性はほとんどの体重を自身で支えてルームランナー上を歩けるようになったという。

 メイヨー・クリニックでリハビリ技術を担当するクリスティン・ツァオ(Kristin Zhao)氏によると、チームは男性の機能回復の可能性を制限せずに経過を見守った。「患者が自分の意思で脚を動かせるようになったことが重要だ」と同氏は述べている。

 埋め込み型機器は男性が下半身に力を込めて動きをコントロールできるよう補助できたが、脚の感覚の回復にはつながらなかった。これは当初、難題だった。人間は普通、歩行時には体重移動の調整を無意識に、瞬間的に行っているが、患者の男性の場合は脳に身体感覚として歩行を認知させる必要があるためだ。

 この問題を克服すべく、メイヨー・クリニックのチームは歩行中に脚の位置を確認できるように男性の膝に鏡を装着。最終的に男性はルームランナー上を数度下を向くだけで歩けるようになった。ただ、埋め込まれた機器の電源を切ると下半身はまひ状態に戻ってしまうという。

 2011年に下半身まひの男性が脊髄下部に電極を埋め込む処置を受け、立ったり脚を多少動かしたりできるようになった例はあるが、チームは下半身まひ患者が埋め込み型機器によって歩行したのは今回が初めてとみている。

 安全上の理由から、男性の埋め込み型機器利用は医師らの監視下での使用に限っている。だが、メイヨー・クリニックの研究によって、脊髄に重傷を負ってもまひから回復できる可能性が示唆された意義は非常に大きい。(c)AFP/Patrick GALEY