【7月22日 AFP】一人っ子政策の廃止は、チャン・インチェ(Zhang Yinzhe)さん(31)と妻のシュウ・メンシャ(Xu Mengsha)さんにとって、天の恵みだった。2人は、いつか2人目の子どもを持ちたいと思い、受精卵を凍結し、体外受精(IVF)することを決めていた。

 だが、中国では体外受精治療の大部分は不妊の夫婦に限られている。いずれにせよ、2年前に一人っ子政策が廃止されて以降、不妊治療クリニックを訪れる患者が急増し、治療まで何か月も待たされる状況が続いている。

 そこで2人は、タイに向かうことにした。体外受精ブームを背景に、大量の中国人が東南アジアや米国など海外になだれ込んでいる。飛行機のパイロットであるチャンさんは、「中国には男女双全(男女の子どもを持てば家庭は完成される)ということわざがある」と語った。

 生殖補助医療ツーリズムにおける中国のシェアは不明だが、政府系機関である前瞻産業研究院(Qianzhan Industry Research Institute)は、市場規模は毎年22%拡大しており、2017年は14億ドル(約1500億円)に達したと推定している。また、さらなる大幅な成長が見込まれている。

 海外のクリニックでは、第2子または第3子を求める中国人へのマーケティングを強化しており、中国語を話す職員を補充し、中国語のウェブサイトを作成している。

 中国の統計によると、一人っ子政策の廃止で、9000万人の女性がもう1人子どもを持つ資格を得たという。昨年の第2子出生数は、第1子出生数を上回った。だが、子どもを持つことを後回しにし、出産適齢期を過ぎてしまう夫婦が増えている。このため、科学の助けが必要となる。

 中国の研究によると、出産適齢期人口の約12%を自然妊娠できない人が占める。だが、許認可を受けた不妊治療クリニックは約400施設にとどまり、1年近く順番を待つこともある。「需要は大きいが、ここでは扱いきれない」と、上海市第十人民医院(10th People's Hospital)の生殖医学部門の責任者、千日成(Ri-Cheng Chian)医師は語る。そこで、中国人はタイ、マレーシア、カンボジア、ロシアなどに向かう。

 中国では体外受精の費用は約3万元(約50万円)だが、海外ではこの数倍になる。だが、質の高い治療が受けられると考える中国人も多い。

 チャンさんは、中国国内で制限されている遺伝子異常の検査を受けられることも体外受精を選んだ理由の一つだと言う。チャンさんは、「中国人家庭にとっては大金だが、自分の子どもの健康には代えられないので、お金をかけるべきだ」と述べた。

 タイのクリニックの中には、中国人患者が全体の80%に及ぶところもあるという。