【7月8日 AFP】英医学誌ランセット(Lancet)は6日、研究不正を指摘されたイタリア人のパオロ・マキアリーニ(Paolo Macchiarini)医師の論文2報を撤回した。同誌は論説欄で「カロリンスカ研究所(Karolinska Institute)のウーレ・ペテル・オッテルシェン(Ole Petter Ottersen)新所長の要請を受け、マキアリーニ氏と共同執筆者らによる論文2報を撤回した」と発表した。

 論文は実験的な気管移植手術に関する内容で、手術を受けた患者の大半が死亡した。権威ある医学誌は関係分野の他の専門家による査読を経て論文を掲載するため、今回の撤回は極めて異例だ。

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は、毎年ノーベル医学生理学賞の発表を担っている。マキアーニ氏は同研究所と契約していた時期に論議の的となった人工気管の移植手術を行い、その結果を報告する論文を2011年にランセットで発表した。手術は人工気管の「スキャフォールド(足場)」を患者自身に由来する幹細胞で覆う手順を伴っており、こうして幹細胞を免疫系による拒絶反応が出ない気管細胞に成熟させる。同氏と研究チームは8人を手術し、うち7人は死亡、残り1人は経過不明となった。

 当初この手術は、再生医療の突破口を開いたとして高く評価された。ただほどなくして、当時重症でなかったにもかかわらず、このリスクを伴う手術を施された患者が少なくとも1人いた疑いが浮上。14年にはカロリンスカ研究所の外科医師数人が、マキアリーニ氏が手術のリスクを軽視していたと内部告発した。同研究所は移植手術を全面的に差し止め、マキアリーニ氏との契約を終了した。

 ランセットはオッテルシェン氏の論文撤回申請を引用した上で、「基礎研究が倫理面から承認されていなかった」ことを明らかにした。同氏は「研究は前臨床研究データによる十分な裏付けがない状況で実施され、論文は不当に確信的でいい加減だ。報告された臨床所見は、原資料に裏付けられていない」とも述べたという。(c)AFP