【6月8日 AFP】3日に大噴火した中米グアテマラのフエゴ(Fuego)火山──からくも難を逃れたエンリ・リバス(Henry Rivas)さん(37)の自宅の前の電柱に、警察が赤いテープを結んだ。危険を警告するためだろうが、リバスさんにはこのテープが「生死の境」を示しているように思えてならない。

 テープの向こう側、200メートルほど自宅前の道を上がったところには、サンミゲルロスロテス(San Miguel Los Lotes)という小さな町があった。今は、火山灰に覆われたがれきの山と化している。地元住民たちは「グラウンド・ゼロ(Ground Zero)」と呼ぶ。

 静けさに包まれた一面の灰の海は今なおくすぶり、ほんのわずかな動きでもぶわりと舞い上がる。ニワトリやウシなど黒焦げの家畜の死骸から腐敗臭が漂い、濁った空気が垂れ込めている。見渡す限り、動くものといえば辺りをうろつく犬か、火山灰をつつくニワトリくらい。時折、火山灰をかぶったままの緊急車両が捜索隊や遺体を乗せて行き来する。

 厚く積もった火山灰の下、たくさんの車やがれきと一緒に、いったい何人の犠牲者が埋もれたままになっているのか誰も知らない。

 国立法医学研究所(INACIF)は7日、これまでに109人の死亡を確認したと発表。今も200人近くが行方不明となっている。国の災害当局によると1万2000人以上が避難を余儀なくされており、負傷者も数十人に上っている。

 リバスさんら住民たちは3日まで、たまに活発化するフエゴ火山のことは気にせず暮らしてきた。しかし「今や、私たちはいつ溶岩にのみ込まれてしまうかとおびえている」とリバスさん。

 3日は仕事で海外にいたリバスさんに、妻が噴火当時のことを話してくれた。当局からは何の警告もなかった。妻はとにかく4人の子どもを連れて走って逃げた。自分たちがサンミゲルロスロテスの「生き残り」だと知ったのは、避難先でのことだった。これからどこで暮らしていけばいいのか──妻は今、それしか考えられない状態だという。

 1キロ離れた人口8500人のエルロデオ(El Rodeo)でも、住民らが火山の鳴動や略奪に脅えている。3日の噴火では、店を開けたまま走って逃げた店主が戻ると店内には何も残っていなかったという事例が相次いだ。数キロ歩いて、火山から離れたところに家を借りた一家もある。

 地元の高齢者たちは、フエゴ火山は恐ろしくないと語る。しかし、火山性地震に長年慣れている彼らにとっても、3日の噴火は前例のないものだったという。山麓に50年以上暮らしているというフランシスコ・ハビエル・カナス(Francisco Javier Canas)さん(81)は、「何千回と噴火を見てきたけれど、こんなのは初めてだ」と語った。(c)AFP/David GARCIA