■証拠なし

 ベトナムでは2000年代半ばにあるベテランの政治家が、サイの角で自分のがんが治ったと主張し、その需要が急増した。トーマス氏はAFPに「これは科学的事実として根拠があるものではないが、この都市伝説が危機を招いたことにほぼ間違いない」と語る。

 アジア地域で人々の所得が上昇するのと同時にサイの角の需要も増加している。サイの角は1キロあたり数万ドルで売買されている。

「欧米社会には、アジア文化でサイの角が媚薬として使われているとの間違った認識が広く浸透しているが、そのような目的で処方されたことはこれまでなかった。ただ皮肉なことに、ベトナムでは昨今、そのような使い方をされるようになった」とトーマス氏は語った。

 いくつかの伝統薬は、欧米諸国でも受け入れられてきている。

 熊胆には、肝臓病の治療に効くウルソデオキシコール酸という成分が含まれていることが分かっており、今では合成的に生産されるようになった。同様に、抗マラリアのアルテミシニンは、もともとはヨモギ科の植物から抽出されていたものであり、アフリカンチェリーの木のある成分は、前立腺の薬をつくるために使用されている。

 だが専門家らによると、今日の多くの動植物の成分への需要は、迷信に駆られたものに他ならない。

 センザンコウのうろこは、ぜんそくや片頭痛の治癒、また授乳女性の母乳の出を良くするとされている。アジア地域では、1キロあたり約500ドル(約5万4000円)で取引され、市場には生のまま、あるいは揚げられた状態のものが出回る。

 8種のセンザンコウのうち、2種は国際自然保護連合(IUCN)の絶滅の恐れのある野生動物リスト「レッドリスト(Red List)」で「深刻な危機(CR)」に、別の2種は「危機(EN)」、さらに別の4種は「危急(VU)」に分類されている。

 トラフィックのトーマス氏は、センザンコウのうろこには、「あるとされている効用を裏付ける科学的証拠はない」と語る。

 2007年から2013年にかけて、推定で年間平均15万頭のセンザンコウのうろこが世界で押収された。だが監視団体によると、これは違法取引のうちの「氷山の一角」にすぎない。トッケイヤモリにエイズを治す効果があるとか、トラの骨が精力増強に効くといったことを証明するものもやはりない。現在の野生のトラの個体数はわずか3000頭ほどとされている。