【10月5日 AFP】スペイン北東部カタルーニャ(Catalonia)自治州の独立をめぐる危機を受け、国王フェリペ6世(King Felipe VI、49)が住民投票を強行した州政府を批判した演説を行ったことについて、専門家からはスペインの君主制そのものを危険にさらしたとの指摘が出ている。

 1日に実施された住民投票では、投票しようとした有権者に警察が暴力を振るって負傷者が出たが、フェリペ6世は3日のテレビ演説でこの問題に一切触れず、多くのカタルーニャ人を失望させた。それどころか国王は、全面的にマリアノ・ラホイ(Mariano Rajoy)首相率いる中央政府側に立ち、カタルーニャ州の指導者らを「不忠」で「完全に法律と民主主義の外に出てしまった」と非難。同州は「憲法の秩序を守らねばならない」と述べた。

 しかし、立場を明確にしたことでフェリペ6世は、カタルーニャ独立の気運を削ぐため中央政府が強硬策に出る地ならしをしてしまい、結果として君主制そのものを危機にさらしていると専門家らは指摘している。

 スペイン王室を専門に取材してきたアナ・ロメロ(Ana Romero)記者は演説について、国王はリスクの高い賭けに出たとの見方を示し、「最終的に何が起きるかによって、フェリペ6世の治世が成功か失敗かが決まることになる」とAFPに語った。

 現状ではあくまで仮定の話だが、もし中央政府が最大限の努力をしたにもかかわらずカタルーニャが独立すれば、スペイン各地の独立を求めている地域にドミノ倒しのように影響が波及しかねない。それに加えて、反王室の機運の高まりや、急進左派新党ポデモス(Podemos)の台頭もある。「国王は王室を、王冠を、そして娘のレオノール王女(Princess Leonor)の未来を守っている」とロメロ氏はみる。

 フェリペ6世の演説を、前国王フアン・カルロス1世(Juan Carlos I)が1981年2月23日にクーデターを食い止めた断固たる介入と比較する専門家もいる。このときフアン・カルロス1世は軍装でテレビに登場し、クーデターを否定した。スペイン国民はそれまで、1975年に死去した独裁者フランシスコ・フランコ(Francisco Franco)総統が復活させた王政を信頼できずにいたが、このときの演説でフアン・カルロス1世は君主としての正統性を勝ち取ったのだ。

 だが、当時はすべてのスペイン人が「民主主義」という一つの価値観の側に立っていたとロメロ氏は指摘。今回のカタルーニャ独立危機は「もっと複雑」で、カタルーニャ人の中でも、スペイン国内のその他地域でも意見が割れていると語る。こうした状況で、国王は火に油を注いでしまった可能性がある。

 フェリペ6世の伝記を執筆しているホセ・アペサレナ(Jose Apezarena)氏は、「演説の中には『対話』という言葉がなかった」と指摘した。また、カタルーニャ人の人類学者ウリオル・ベルトラン(Oriol Beltran)氏は、「融和主義的な姿勢を期待されていた」のに「宣戦布告のように感じた」と述べている。(c)AFP/Alvaro VILLALOBOS and Alfons LUNA