【6月9日 AFP】党名の記載がない選挙パンフレットに並ぶのは、中道系の新大統領が掲げる政策に沿うよう慎重に調整された公約だ──今月11日と18日に行われるフランス下院選(定数577、2回投票制)で議席を得ようとする候補者たち、特に左右両翼の穏健派は、エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領(39)の勢いにあやかろうとしている。

「近ごろのヨーグルトで大事なのは、ラベルよりもその味だ」と話すのは、パリ北部モンマルトル(Montmartre)地区での議席獲得を狙うピエールイブ・ブルナゼル(Pierre-Yves Bournazel)候補(39)。保守勢力・共和党の所属だ。選挙パンフレットには「大統領多数派」の形成に尽力したいと書いてある。つまり、共和党から出馬しているにもかかわらず、マクロン大統領が掲げる多くの改革を議会で支持するという意思表示だ。

 ブルナゼル候補、そして他の共和党候補やライバル社会党候補も示しているこうした姿勢は、マクロン大統領が仕掛けた政治的地殻変動を反映するもので、第2次世界大戦後の仏政界を率いてきた2大政党に生き残り合戦を強いている。

■所属政党よりもマクロン政策への近さ強調

 マクロン氏は、フランス政治における新たな断層は「革新派」と変革に反対する者の間にあると述べ、旧来の左派・右派の分断は時代遅れだとしてはねつける。超党派の組閣を行い社会党からも共和党からも起用したことで、両党内は彼のプラグマティズムに賛同する派と反マクロン派に分かれ、亀裂が深まっている。

 モンマルトル地区でのブルナゼル候補のライバルの筆頭は、社会党のミリアム・エルコムリ(Myriam El-Khomri)前労働相だ。彼女も「(議会)多数を占める革新派のために、マクロン氏と協力する」との意思を表明している。エルコムリ候補の選挙ポスターでは、社会党のロゴが下端に追いやられ、党のシンボルカラーであるバラ色は消えている。その代わりに、生まれたばかりのマクロン氏の政党「共和国前進(REM)」が使うブルーがポスターの基調となっている。

 マクロン氏と共和国前進にあやかろうとする候補者たちの姿勢に、有権者の一部は困惑している。マクロン氏を支持するモンマルトル住民、オリビエさん(49)は「最も驚くのは、それぞれの党でかなり長く活動してきた候補者たちが互いに、自分の方がいかにライバルよりも『前進』に近いかを有権者に説明するのを目にすることだ」と語った。