【5月9日 AFP】アントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)といったイタリアの名匠が作った古いバイオリンは、非常に高い評判を博している。だがそれをよそに、米ニューヨーク(New York)や仏パリ(Paris)にあるコンサートホールで行われた比較実験では、より多くの被験者が新しい楽器の音の方が好みだと回答した。研究結果が発表された。

 古いバイオリンと新しいバイオリンのどちらがより良い音を奏でるか──この長年の論争に新たな火種を投下するこの研究論文は査読学術誌の米科学アカデミー紀要(PNAS、電子版)に8日、掲載された。

 研究は、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究者、クローディア・フリッツ(Claudia Fritz)氏が主導した。同氏は「古いイタリア製の楽器は現在、大半の演奏者には手の届かないほど高騰しているため、古い楽器の音色が優れているとする基本的仮説を検証することは重要と思われる」と実験について説明した。

「ストラディバリウス」のバイオリンは、17~18世紀に作られた。これらの楽器には今日、数百万ドルの高値が付くことも珍しくない。

 専門家らによると、これらの古い楽器は、最近のものと比較して、演奏者の耳下では音がより静かに聞こえる一方で、コンサートホール内では高い質の音がより遠くまで届くという興味深い特徴があるという。

 そこで研究チームは、音楽に精通した聴き手の被験者に、ストラディバリウスのバイオリン3丁と最近のモデルのバイオリン3丁を、聴き手の好みと楽器が発する音に基づいて比較評価させた。

 実験は2回行われた。1回目はパリ近郊の300席のコンサートホールで55人の聴き手を対象に、2回目はニューヨークにある860席のホールで82人を対象に、それぞれ実施された。

 実験では、目隠しをした演奏者が幕の反対側で、時にはオーケストラとともに、時にはオーケストラなしで楽器を奏でた。

 実験の結果について論文は、「聴き手は音楽的経験に関係なく、古いバイオリンより新しいバイオリンを好み、古いのより新しいものの方が良い音を発すると感じた」と結論付けている。

 また、演奏者と聴き手のどちらも「新しいバイオリンと古いバイオリンを確実に聴き分けるのは不可能」だったことも付け加えた。

 論文には、「独奏者はオーディションやコンクールなどで、演奏するバイオリンの来歴を伏せて審査が行われるなら、世間一般の通念や慣例に反して、古いバイオリンよりもむしろ新しいものを演奏すると恩恵が得られるかもしれない」とのコメントが記された。

 今回の論文の執筆者らのうちの2人は、利益相反の開示を行っている。1人はバイオリンとビオラを製作する工房に雇用されており、1人はオーケストラ用弦楽器の製作会社に勤務している。(c)AFP