【2月24日 MODE PRESS】空山基(Hajime Sorayama)はメタリックなロボットとエロスを融合させたシリーズで知られる世界的アーティスト。その卓越した写実力で「ハイパーリアリズムの巨匠」とも呼ばれている。また「ナイキ(NIKE)」や「エクストララージ(XLARGE®)」などファッションブランドとのコラボレーションでもおなじみだ。

 昨年、東京・森美術館で開催された「宇宙と芸術展」は来場者20万人を突破。中でも空山の作品「セクシーロボット」はその圧倒的な存在感で多くの人をあっと言わせた。近未来を予感させるような作風だが、本人は意外にもアナログ派で「グーグル検索もできない」と笑う。この型破りなアーティストは、いったいなぜロボットを描き続けているのだろうか?

(左)森美術館にて(2016年12月16日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji(右)Sexy Robot ©Hajime Sorayama Photo by Shigeru Tanaka Courtesy of NANZUKA

■初代アイボの生みの親

 今から18年前、空山は「ソニー(SONY)」が開発したペットロボット「アイボ(AIBO)」のコンセプトデザインを手がけた。子犬に似た動作をする4足歩行のロボットは人工知能を搭載し、ユーザーとのコミュニケーションを介して成長していく。銀色の耳やしっぽを揺らしつつ、ボールとじゃれあう姿はまるで本物のペットのようだ。「アイボ」のその革新的なデザインはロボットの歴史に大きく貢献し、2001年にはスミソニアン博物館&MOMAのパーマネントコレクションに収蔵されている。「ペッパー(Pepper)」や「ロボホン(RoboHon)」といった現代の人気ロボットも、「アイボ」がなければ誕生しなかったかもしれない。

 空山のデスクには今でも「アイボ」の部品が並べられ、変わらぬ愛情が注がれている。「壊れた『アイボ』は工場で全部潰されるのよ。憐れだから部品をキーホルダーにしてみんなにあげたの。だってかわいそうじゃん?」。その優しい視線は、まさに「生みの親」ならではだ。

空山がコンセプトデザインを手がけた初代「AIBO」ERS-110(2017年2月10日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■ロボットは、追いつけない理想像

「アイボ」のデザインは科学技術の進歩に合わせて何度も練り直されている。だが空山が描いている作品の多くに実用性はなく、あくまで「レトロ・フューチャー」の世界観だと本人は語る。70年代から続く人気シリーズ「セクシーロボット」もアンドロイドではなく、「ステンレスで描いた女性像に可動式の記号を入れているだけ」。そこに描かれているのは未来図ではなく、けっして追いつけない理想像なのだという。

「ファッションでも映画でもSF要素のあるものは昔からある。ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)やヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)も過激なことをやるけれど、アパレルの技術がどれだけ進んでも金属は縮まないし、ユニバーサルジョイントにならない。それがたとえ現実的に可能になっても、イマジネーションはさらにその先に行っている」。だからこそイマジネーションは最強であり、不滅。空山はそう信じている。

©Hajime Sorayama Courtesy of NANZUKA

■ルネッサンスなんてゴミだよ

 空山が描く女性ロボットのエロスにドキッとする人も多いだろう。「後ろからいきなり鈍器で殴るような絵を出してみんなをびっくりさせる」というのが空山のアートだ。「文化やクリエイティヴって、びっくりさせることだと思っている。びっくりというのは、綺麗な言葉で言うと『感動』。そのために一番簡単なのはタブーを破ること」。その姿勢は恐れ知らずで、どこまでも大胆だ。

 また「アカデミズムには意味もなく反抗したくなる」という空山は「ルネッサンスなんてゴミだよ。ミケランジェロ(Michelangelo)はゴミ」と豪快に笑い飛ばす。だが「レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da VInci)もゴミだけど、生き様がすごいから好き。死体解剖も法律や道徳に反するのに、『人間の身体はどうなっているか?』という興味を最優先してタブーに切り込んだ。私なんかそんな蛮勇ないもの」と独特の着眼点で語る。

制作中のアトリエはたくさんのスケッチで溢れる(2017年1月19日撮影)。(c)MODE PRESS/Mana Furuichi