【9月16日 AFP】両腕のない男が弓矢を売る店に足を踏み入れる―リオデジャネイロ・パラリンピック、アーチェリーの米国代表マット・スタッツマン(Matt Stutzman)自身もそれが冗談のように聞こえると認める。

 しかしこれは実際にあった話だ。驚くべきことに、スタッツマンはパラリンピックのトップ選手であるだけでなく、「最も長い距離の的を射抜いた」ギネス世界記録(Guinness World Record)の保持者でもある。

 妻のアンバー(Amber Stutzman)さんが仕事を掛け持ちして働く傍ら、自身が持つ障害が原因で家族や仕事に貢献できない状況が「憂鬱(ゆううつ)」だったというスタッツマンは2009年、想像もつかないような決断を下した。

 33歳のスタッツマンは14日に行われた競技後、「人は、家族を食べさせたいと必死な時は、どんなことにでも挑戦しようとするものです」と語った。

「ただ弓を見て、『外に出かけて動物を狩る、冷凍庫に入れて食料にする、それこそが私のやりたいことなんだ』と言いました」

 生まれながらにして両腕がなかったスタッツマンが初めにやらなければならかったことは、店に行くことだった。

「初めて店の中に入った時、『弓を買いたい』と言ったんです。彼らは私のことを不思議そうに見て『どうやって弓を引くんだ?』と聞いてきた。私は、『わからない。とにかくくれ』と答えました」