【7月25日 AFP】タイの首都バンコク(Bangkok)に初めてお目見えした高齢者向けデイケア施設から、77歳になるおばを乗せた車椅子を押して出てきたナコン・ティアンプラサートさん(35)は、家族としての務めというものについてつくづく考える。夜勤の仕事と、年老いた親類の世話の掛け持ちを余儀なくされている生活のことだ。

 急速に高齢化が進むタイでは、こうした悩みはもはや珍しいものではない。高齢化に伴う人口動態の変化は社会的な規範にひずみを生みつつあるうえ、経済面でも大きな波乱の種になる恐れが出ている。

 タイでは年老いた両親の世話をする人が多い。幼い頃から、親の世話は子どもの役目だとたたき込まれているからだ。

 しかし、子どもがこうした責任を果たすのは次第に難しくなりつつある。タイでは65歳以上の人口が向こう30年で現状の700万人から1700万人に膨れ上がると見込まれるなか、労働者人口は減少し、福祉や医療制度に大きな負担がのしかかることになるためだ。

 しかも、中所得国であるタイは高所得国への仲間入りを果たす前に人口の高齢化を迎えている。この点は、日本やシンガポールなど高齢者向けの財源があるアジアの他の高齢社会国との大きな違いだ。

 タイは温暖な気候であるうえに、高級な高齢者向け施設が数多くあることから、西側諸国の年金生活者に人気の移住先となっている。だが、こうした施設は地元住民には手が届かないのが実情だ。

 そこで、バンコク郊外で冒頭のナコンさんらが妥協案として活用しているのが、寄付を元にした、いわゆるデイケアサービスだ。これのおかげで子どもたちは日中、親をこの施設にあずけて仕事などに出かけられる。