【6月2日 AFP】体色が灰白色から黒ずんだ色に進化したことで知られるガの一種、オオシモフリエダシャクについて、この進化を可能にした遺伝子を特定したとの研究結果が1日、発表された。暗黒色への進化は、工業化が進んだ19世紀英国の、煤煙で「暗化」した環境で、捕食動物の目から逃れるためだった。

 別の研究では、同じ遺伝子の作用により、約40種のチョウに派手な黄色のしま模様が現れることが報告された。これは、目立つ黄色が有毒性を示す目印となり、捕食動物である鳥たちから身を守るすべとなるのだという。

 それぞれ独立した研究論文として英科学誌ネイチャー(Nature)に発表されたこれらの成果は、多くの理由で驚くべきものだと研究者らは指摘している。

 ドクチョウ(Heliconius)属のチョウは、進化系統樹上で約1億年前に、ガから分岐した。このことは、両者にみられるこの「コルテックス(cortex)」遺伝子が、非常に長期間にわたって、著しく安定した状態を保ってきたことを意味している。

 今回の論文1件の主執筆者で、英シェフィールド大学(University of Sheffield)の研究者であるニコラ・ナドー(Nicola Nadeau)氏は、「オオシモフリエダシャクとドクチョウ属の両方で、体色や模様を変化させるのに同じ遺伝子が関与していることは、この昆虫グループ全体で、この遺伝子が同様の機能を持っていることを示唆している」と指摘している。

 さらに注目すべきは、この遺伝子が、進化を後押しする突然変異に関わる種類の遺伝子ではないことだ。これは、関係遺伝子がこれまで特定されなかった理由の一つになっている。

 この遺伝子の中心的な役割は、雌の昆虫で卵細胞を生成することで、さらに一般的には、細胞分裂の制御にも関連している。

 ガとチョウの両方で、コルテックス遺伝子は捕食を逃れるための変異を起こしたが、その方法は全くの正反対だった。オオシモフリエダシャクは、煤煙で黒く汚れた木の幹の上で自分を目立たなくすることにより、環境に適応した。逆にドクチョウ属は、周囲の目を自分に引き付けて、「危険、毒物」の警告を示す。