【5月31日 AFP】人道支援を行うドイツの非政府組織(NGO)が30日、地中海(Mediterranean Sea)で引き揚げられた移民の乳児の水死体写真を公開し、欧州諸国の首脳らに対し、移民に安全な渡航経路を提供するよう訴えた。海で水死した移民の数は、先週だけで数百人に上ったとされる。

 写真の乳児の身元は特定されていないが、ドイツのNGO「シー・ウオッチ(Sea-Watch)」によれば、先週リビア沖で350人の移民を乗せた木造ボートが転覆した際に水死した子供だという。救助隊員の両腕に抱かれている子供は、目を閉じ、唇からは血の気が失せている。

 シー・ウオッチによれば、救助隊の船が現場に到着した時にはすでに多数の移民が水死していたという。ただし、具体的な死者数は明らかにされていない。

 欧州が第2次世界大戦(World War II)以降、最悪の移民危機に直面する中、シー・ウオッチは、移民の死者をこれ以上出さないために、欧州連合(EU)の指導者たちに緊急対策を求めている。乳児の写真に添えられた声明では「こうした写真を見たくないならば、こうした写真が生まれるのを阻止しなければならない。こうした悲惨な出来事は続いており、海でこれ以上の死者を出さないようにしなければというEUの政治家たちの呼び掛けは、口先だけだったことが明らかになってきた」と述べている。

 先週、地中海では、多数の移民が中東やアフリカから粗末な船に乗って命懸けで欧州を目指した結果、相次ぐ事故で700人が水死したとみられ、その多くは子供だったとされる。

 昨年トルコの海岸に水死体となって打ち上げられたシリア移民の男児、アイラン・クルディ(Aylan Kurdi)君(当時3)の写真は世界中に衝撃を与えた。シー・ウオッチは「こうした事故には終わりがない。人々がボートに乗らざるを得なくなる政策が存在する限り、こうした写真が生まれる。EUに合法的かつ安全に入国できる新たな制度を確立するだけで、こうした人道的悲劇に終止符を打つことができると思う」と声明で述べている。また、こうした写真は「EUの外交政策が招いた悲劇として、欧州社会に認識してもらう必要がある」と主張し、子供の水死体写真を公開したことを正当化している。(c)AFP