【5月30日 AFP】わびしげなユッカの木や頑強なヤマヨモギの茂み以外、何もなかった米西部ネバダ（Nevada）州南端の砂漠に町を一つ築いたナンシー・キッドウェル（Nancy Kidwell）さん（78）は、現代の開拓者だ──。

　半世紀前、ナンシーさんと最初の夫スリム（Slim Kidwell）さんは、軍が放置していった砂利だらけの三角形の飛行場に、カジノや店舗、キャンピングカー用の施設、モーテル、バーやレストランを建て、周辺の砂漠地域を行き交う人々が遠方から集まってくるにぎやかな町を作り上げた。今では住民350人がこの町でたくましく生活している。

　ネバダ州ラスベガス（Las Vegas）から南へ約1時間、同州南端に位置するこの町は、カリフォルニア（California）州やアリゾナ（Arizona）州から20キロと離れていない。3州に挟まれる形で存在していることから、町はカルネバリ（Cal-Nev-Ari）と名付けられた。自家用機で降り立つ旅行者も多く、町のカジノをめぐっては、午後遅くに到着し、その夜のうちに飛び去ることができると宣伝されたこともある。

　荒野に切り開かれたナンシーさん夫妻のこの夢の町が今、売りに出されている。希望価格は800万ドル（約8億9000万円）だ。

　町の売却に抱くナンシーさんの思いはほろ苦い。この砂漠の一角の上空を1965年に夫と共に飛んで以降、彼女が知っている世界はここだけなのだ。外界と切り離され、ただただ美しいこの土地をぼうぜんと見下ろしながら、2人はカリフォルニアの過酷な競争社会を離れ、ここに住むことを決めた。

　だが、アルツハイマー病を患ったスリムさんは1983年に他界。ナンシーさんも、従業員22人の業務を管理して週7日間みっちり働き、町長と警察署長を兼任しながら、町で唯一の女性実業家として生活することに少々疲れてきたと話し、「人生のうちの51年間を一つの場所で働きづめで過ごしてきた後、人はいったいどういう余生を送るんでしょうね。私にはこれからそれが分かりますよ」とコメントする。