【2月6日 AFP】昨年11月にフランス・パリ(Paris)で起きた同時テロ事件の現場の一つとなったレストランが5日、正式に再開したが、訪れた客は少なかった。再開を喜ぶ雰囲気とはほど遠かった。

「店はものすごく繁盛していた。愛されていた。なのに今は常連客さえ、立ち寄りもせずに、通り過ぎてしまう」。仕方なく4人のスタッフを解雇したと、ピザ店「カーサ・ノストラ(Casa Nostra)」のオーナー、ディミトリ・モハマディ(Dimitri Mohamadi)さんは言う。

 通りの向かいにあるバーが昨年12月初旬に再開したときには、人々から祝福され、感動の空気さえ漂っていた。一方、モハマディさんは2週間ほど前から店を開けているが、事件前は1日60人ほどいた客が、正式再開の前日はたった8人だった。

 テロ事件直後、英大衆紙デーリー・メール(Daily Mail)は、モハマディさんの店の監視カメラが銃撃の瞬間を捉えた衝撃的な映像を公開した。そこには銃撃犯が目の前に迫りつつ、難を逃れた女性の姿もあった。

 しかし、デーリー・メールがモハマディさんの店に5万ユーロ(約650万円)を支払ってこの映像を入手したとする報道があり、フランス世論は紛糾した。その騒ぎが尾を引き、モハマディさんは「真に傷ついた。気分が落ち込みがちで、抗うつ剤を飲んでいる。もはや人生を楽しめない」と言う。その報道によって、商売が成り立たなくなったと訴える。

 昨年11月13日のパリ同時テロ事件では、130人が殺害された。モハマディさんの店も銃撃された。幸い店内では死者はなかったが、店の前の通りで5人が負傷した。

 事件で被害にあった店には、パリ市当局から1軒当たり4万ユーロ(約520万円)が賠償金として支払われた。しかし、モハマディさんの店への支給分は保留とされている。「それを思うとますます気持ちが落ち込む。国さえもが私を悪者だと思っている」とモハマディさんは語った。

 モハマディさんの弁護士ジェフリー・シナジ(Jeffrey Schinazi)氏は仏ニュース番組「プチ・ジャーナル(Petit Journal)」で、モハマディさんの店が監視カメラ映像を売却したと伝えた報道機関の一つが名誉棄損訴訟で裁判所の出頭命令を受けていると語った。(c)AFP