【12月3日 AFP】中国伝統の生薬から抗マラリア剤を抽出したことを評価され、中国人として初めて来週、ノーベル医学生理学賞(Nobel Prize in Physiology or Medicine)を授与される中国の屠●●(Tu Youyou、●は口へんに幼)氏。しかし、屠氏の受賞によって、中国では伝統医学における科学の役割をめぐり論争が起きている。

 伝統中国医学(中医学)に関する4世紀の書物で「クソニンジン(Artemisia annua)」が解熱剤として処方されていたとの記述を発見した屠氏は、クソニンジンからアルテミシニンと呼ばれる成分を抽出。蚊が媒介する薬剤耐性マラリアが拡大する中で、世界的なマラリア根絶の取り組みの決定打となる薬を開発した。

 中国の一部では、中医学を文化的な誇りの源とする地域もある。中国政府も中医学を押し進める構えをみせる。李克強(Li Keqiang)首相も屠氏のノーベル賞受賞に言及。「伝統中国医学が人類の健康に多大な貢献をしてきたということだ」と屠氏の発見を称賛した。

 だがノーベル賞の選考委員、ハンス・フォシュベリ(Hans Forsberg)氏は「われわれは伝統中国医学に賞を授与したのではない。この点は非常に重要だ」ときっぱりと述べ、授賞の対象は伝統医学に触発された科学的研究だと強調した。

■伝統中国医学には逆風か

「気」の存在を生命力とし、ヒトの病は火・水・土・金・木の5要素のバランスの崩れによるものとする伝統中国医学は人体生物学的な考えを基本とする。

 一方、こうした概念に確証はないとする見方もある。伝統中国医学について、英科学誌ネイチャー(Nature)は「大部分は疑似科学にすぎず、療法の大半に合理的な作用機序はない」と評し、「大量の神秘薬と薬草の調合」だとしている。これに対し、屠氏の研究は1つの植物の有効成分を化学的に抽出したものだ。

 北京(Beijing)で人気の伝統中国医学医院を営むラン・ジールイ(Lan Jirui)氏は、屠氏のノーベル賞受賞について「西洋化した中国医学を評価したもので、本来の伝統医療にとっては、むしろ益よりも害となるのではないかと多くが心配している」と話す。

 国営英字紙チャイナ・デーリー(China Daily)は、屠氏の研究を伝統中国医学の勝利と評するのは「無謀」と断じ、ヒトを「体全体」でとらえる中医学の伝統理論を無視して、医学の西洋化を助長するものだと主張する。