【11月9日 AFP】インドの村に暮らすムニア・ムルムさん(40)は、新しく作ったばかりの泥とれんがの家の中に置かれたテレビを指さした。最近手にするようになった収入で買った自慢の品だという。ムルムさんがテレビを買えたのは、もぞもぞと動き回る緑の虫たち――カイコのおかげだ。

 インドに何千人と存在する他の先住民集落の人々と同様、ムルムさんも極度の貧困を強いられている。つい最近まで、自分や家族のために十分な食べ物を手に入れることすらできなかった。そこでムルムさんは故郷の村の住民に加わり、出身地の東部ビハール(Bihar)州の原生林で野生のカイコを育てる仕事に就くことを決めた。

 ムルムさんが数十人の女性たちと一緒に育てているカイコは、絹(シルク)の糸を産生する。シルクは、サリーやその他の衣料品、インテリア雑貨などの素材に用いられ、インド国内はもちろん、欧州や米国からも高い需要を誇っている。

 2児を抱え辺地に暮らすムルムさんは、他の養蚕業者へのカイコの卵の販売も行っている。1年のうち3か月間の繁殖期に5万ルピー(約9万円)を稼ぐことができる。ムルムさんにとってはかなりの高収入だ。

 ムルムさんはAFPに対し「以前はトイレも扇風機もない小さな家に住んでいた。養蚕を始めてから、後悔したことは一度もない」と笑顔を輝かせて話しながら、大きな金属製のトランクから、ぴかぴかのモバイルコンピューターを取り出した。

 部族の生活の様子を描いた色鮮やかな壁画で飾られたムルムさんの家には、トイレが2つ設置されている。前庭には水くみポンプがあり、テレビ鑑賞用の部屋まである。