【8月28日 AFP】第2次世界大戦(World War II)中にドイツ軍の捕虜収容所から脱走し、映画『大脱走(The Great Escape)』の原作モデルとなった元連合国軍将校で、現在まで生存していた2人のうちの1人、オーストラリア人のポール・ロイル(Paul Royle)氏が豪西部パース(Perth)の病院で死去した。101歳。同氏の息子が28日、明らかにした。

 同氏の死去により、英国人のディック・チャーチル(Dick Churchil)氏(94)が唯一の生存者となる。

 英空軍(Royal Air ForceRAF)大尉だったロイル氏は、1944年3月の凍えるように寒い日に、ポーランド西部にあったドイツの第3捕虜収容所(Stalag Luft III)から3本のトンネルを掘って脱走した76人の1人。無事に脱走を果たしたのは3人だけで、残りはナチス・ドイツ(Nazi)の秘密国家警察ゲシュタポ(Gestapo)に捕らえられ、うち50人はアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の命令で処刑された。

 この脱走劇は、1960年代に米ハリウッド(Hollywood)の名俳優スティーヴ・マックィーン(Steve McQueen)や英映画監督・俳優リチャード・アッテンボロー(Richard Attenborough)らが出演した映画で広く知られている。

 ロイル氏は昨年、オーストラリア放送協会(ABC)のインタビューで、トンネルを抜けて地上に出た時のことを今でも鮮やかに覚えていると語っている。「とてもうれしい瞬間で、目に映るものは厚く積もった雪と松の木々だけだった。あたり一面の雪で、とても寒かった」。自由を目指して逃走する間、恐怖は感じなかったという。

 しかし、ロイル氏は近くの村で捕まってしまい、結局、元の収容所に戻された。そこで、やはり捕虜となっていた豪空軍パイロットで『大脱走』原作者のポール・ブリックヒル(Paul Brickhill)氏と出会った。

 映画『大脱走』ではマックィーン演じる米兵の活躍とバイクで逃走する場面が描かれるが、実際に脱走したのは英軍を中心とする連合国軍兵士たち。ロイル氏は生前のインタビューで「収容所にバイクは一台もなかったし、米国人もいなかったから」同映画は嫌いだと語っていた。(c)AFP