【5月22日 AFP】ロボットアームを動かそうとする患者の意図を感知する最新の脳インプラント技術を開発したとの研究結果が21日、発表された。

 米科学誌サイエンス(Science)に発表された論文によると、エリック・ソルト(Erik Sorto)さん(34)は「意図が作られる脳部位に神経プロテーゼ(人工器官)を埋め込んだ世界初の人物」だという。

 21歳の時に銃弾による負傷で首から下がまひ状態になったソルトさんは現在、ロボットアームを使って握手のしぐさをしたり、飲み物が入ったコップをつかんだり、「じゃんけん」をしたりすることもできるようになっている。

 プロテーゼを制御するために脳インプラントを用いるこれまでの試みでは、動作を制御する脳部位の運動皮質に脳インプラントを埋め込んでいた。一方、今回の実験は、2個の微小電極アレイを後頭頂葉(PPC)に埋め込んで実施した。PPCは「手を伸ばす」「つかむ」などの動作をするための意図を処理する脳部位だ。

■動作の滑らかさが向上

 研究を率いた米カリフォルニア工科大学(California Institute of TechnologyCaltech)のリチャード・アンダーセン(Richard Andersen)教授(神経科学)は「腕を動かす時に実際には、どの筋肉を動かすべきかといったことや、腕を持ち上げる、腕を伸ばす、カップをつかむ、カップの周りに手のひらをまわして閉じるといった細かい動作の一つ一つについては考えていない。実際に考えるのは『水の入ったカップを手に取りたい』というような、動作の目的だ。今回の実験では、動作を多数の構成要素に分解するのではなく、全体の動きとして思い描くように被験者に指示することで、実際の意図の解読を可能にすることに成功した」と説明する。

 この結果、過去の実験で観察されたぎくしゃくした動きよりも滑らかな動作を実現できたと研究チームは述べている。

 ソルトさんは2013年に脳インプラントの移植を受けて以来、米ランチョ・ロス・アミーゴス国立リハビリテーションセンター(Rancho Los Amigos National Rehabilitation Center)で訓練を続け、体に装着していないロボットアームを制御する方法を習得してきた。

 ソルトさんは、脳手術から約2週間後に行った全く初めての試みでロボットアームを思い通りに動かすことができた。「それがあまりに簡単だったことに驚いた」と2児のシングルファーザーのソルトさんは話す。「自分でビールを飲めるようになりたいと、皆に冗談を言っている。ビールをちびりちびり飲みたい時は自分のペースで飲めるように、誰かに飲ませてくれと頼まなくても済むようになりたいとね。そういう風に自立したいと切に思う。十分な安全性があれば、自分で身支度を整えるのも楽しめるのにと思う。自分でひげをそり、歯を磨く。そうできたら最高の気分だろう」

 今回の臨床実験は、カリフォルニア工科大、米南カリフォルニア大学ケック医学部(Keck School of Medicine of the University of Southern California)、ランチョ・ロス・アミーゴス国立リハビリテーションセンターが共同で行った。(c)AFP