【3月2日 AFP】中国人の会社員、チェン・イリさんは韓国の病院で受けた鼻の整形手術に数千ドルを支払った。テレビで見る女優のような華やかな外見を夢見ていたが、手術で容姿はかえって損なわれてしまったという。

 活況に沸く韓国の「医療観光」(メディカル・ツーリズム)産業における粗雑な施術や規制の欠如を訴える中国人女性が最近、増えている。チェンさんは「韓国人女性のような鼻にしてくれると言われた。新しい鼻と唇、あごを作ってくれるって。だけど、術後の鼻を見た友人たち全員に、曲がっていて醜いと驚かれた」と嘆く。

 韓国政府は2月、一大産業である美容整形がけん引する「医療観光」の振興を維持するため、違法な仲介業者や無認可のクリニックを取り締まる方針を発表した。

 アジアの文化発信大国である韓国のドラマやポップス音楽のビデオは、中国で絶大な人気を誇る。それらには美容整形を受けたスターたちがよく出演している。中国の美容整形産業も数百億ドル規模と大きいが、安全性への懸念から、経済的に余裕のある人たちが外国で施術を受けるケースが増えている。

 公式統計によれば、2013年の韓国の「医療観光」産業は3億6000万ドル(約430億円)に届く規模だった。韓国の保健福祉部によると、医療観光客数の国別ランキングでは中国がトップで、前年比70%の2万5400人増えている。また中国人観光客が美容整形手術に支払う金額は概して、韓国国内の患者の2倍を超えると中国紙・南方週末(Southern Weekly)は報じている。

 韓国の美容整形外科の多くが中国語版のウェブサイトを持ち、観光と組み合わせた手術プランや、手術日を中国の祝日に合わせたプランを提案している。

 中国からの患者が支払う額の3分の1は、クリニックに代わって連絡係を務める仲介業者に渡る。チェンさんの場合、最初の問い合わせをした後、仲介業者からひっきりなしに連絡があり、巧みに言いくるめられて手術を受けることになったという。

■感染症から精神的打撃、自殺未遂も

 チェンさんが10年にソウル(Seoul)のクリニック「ビューティー・ライン(Beauty Line)」で整形手術に費やした額は、2万6000ドル(約310万円)以上。鼻を高くするため、胸部の軟骨を鼻に移植する手術などを受けた。だが、中国に戻ってから、チェンさんは鼻の感染症に苦しめられるようになった。精神的にも問題を抱え、毎日12錠の抗うつ薬を服用しているという。

 AFPの取材に応じた韓国の保健福祉部の幹部は「違法仲介業者や高額の医療費、医療ミスなどをめぐり、外国人患者から苦情が寄せられている」と明かした。また韓国の形成外科医らの協会によると「一部のクリニックは、外国人患者の治療が許可される国家資格を持たずに、中国人患者を扱っている」という。

 ウィニー・ワンさん(45)は、13年に受けた整形手術で両目の大きさが不ぞろいになり「精神的に打ちのめされ、泣いて、自殺未遂までした」。デザイナーのユー・リジンさんは、ソウルのクリニック「フェイスライン(Faceline)」で、あごの骨を削るなどして二重あごを解消する手術を受けたが、術後に見ても分かるほどかみ合わせが悪くなり、食べることもままならず、常にマスクで口元を隠しているという。

 しかし「フェイスライン」側は、ユーさんは中国で2度、整形手術に失敗しており、そのために生じた口のゆがみを直すために来院したのだと反論している。同クリニックは声明で「手術のリスクが非常に高かったので、ユーさんを何度も帰したが、数週間にわたる懇願を受けて、やむなく治療に応じた」と説明。また、ユーさんは術後の管理についての指示にも従わなかったと非難している。(c)AFP/Tom HANCOCK, Jung Ha-Won