【2月2日 AFP】ポーランド北部の港湾都市グダニスク(Gdansk)で、画家のダヌタ・ロマン(Danuta Roman)さん(42)は絵筆を握り、オランダの巨匠ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)の油彩に描かれた水面に映る景色を、青、青緑、暗青灰色の短いタッチで真似ようと試みていた。

 セーヌ(Seine)川が流れる仏パリ(Paris)郊外の一風景を描いた、ゴッホによる1887年の作品をじっくりと観察し、「ゴッホがこの風景をどうやって創造したのか理解しようとしているんです」とロマンさんは話す。

 拳銃自殺を図り、その傷がもとで亡くなったとされるゴッホの死から125年を経た今年、ロマンさんのほか約70人のアーティストたちは、世界初という全編手描きの絵画から成る長編アニメーション映画『Loving Vincent(愛情あふれるビンセント)』の制作に取り組んでいる。

 450万ユーロ(約6億円)を投じ、ゴッホの作品と彼の悩める魂に焦点を当てた映画は、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)原作のストーリーと音楽をベースにした短編アニメ映画『ピーターと狼(Peter and the Wolf)』で2008年の米アカデミー賞短編アニメーション賞に輝いた映画制作会社「ブレイクスルー・フィルムス(BreakThru Films)」が手掛ける。

 大胆な色使いと、荒く生き生きとした筆使いで知られるゴッホは、19世紀における最も革新的な画家の一人に数えられている。自分の耳を切り落とすという有名なエピソードが物語るように、ゴッホは精神疾患による発作に度々苦しめられ、37歳の若さでこの世を去ったが、生前にはたった1枚しか売れなかった彼の絵は現在では数百万ドルの値がついている。

■制作のモットーは「ゴッホを演じる」

 グダニスクにあるスタジオですでに6か月前から映画制作に取り組んでいるブレイクスルー・フィルムスのアーティストたちは、年内の完成を目指して作業に追われている。

 ブレイクスルーを率いるショーン・ボビット(Sean Bobbitt)監督は「映画では毎秒12枚のキーフレーム、言い換えれば12枚の絵が必要だ。アーティストたちの1日平均の制作枚数は6枚だから、映画のうちの0.5秒分に相当することになる」と説明する。今回は80分間の作品で、計約5万6000枚のキーフレームが必要ということになる。