【1月7日 AFP】世界的な論争を呼んでいる安楽死法を施行しているベルギーで、強姦(ごうかん)を繰り返し殺人罪でも有罪判決を受けた受刑者に対しいったんは承認された安楽死が、新たな医療判断に基づき取り消された。当局が6日明らかにした。

 安楽死の承認を受けていたのは、複数の強姦罪と強姦殺人罪1件で26年間服役してきたフランク・ファン・デン・ブリーケン(Frank Van Den Bleeken)受刑者。コーエン・ギーンス(Koen Geens)法相は、ブリーケン受刑者が現在収監されている同国北西部ブリュージュ(Bruges)の刑務所から、ベルギー北部のヘント(Ghent)に設立された新しい精神科医療施設へ移送すると発表した。

 ベルギー北部の言語であるフラマン語紙デ・モルゲン(De Morgen)は3日、同受刑者が今月11日にブリュージュの刑務所内で、本人の自発的意思により薬物注射で安楽死すると伝えた。

 この報道に人権活動家らが反発。ベルギーは国としてこのような事例に対し適切な治療を行うことを怠り、自ら安楽死法に違反しているという指摘が寄せられた。

 ギーンス法相は声明で、「同受刑者の主治医らが、安楽死に向けた準備を継続しないという判断を下したことに留意した」と述べたが、医療面でのプライバシーを理由にそのような決定に至った理由については明かさなかった。

 ブリーケン受刑者の弁護士によると、同受刑者は激しい性衝動を抑制することができないため「耐えられない」精神的苦痛を受け続けているとして、国に対し自殺ほう助を何年にもわたって要請していた。昨年9月になって、この希望を医師らが承認していた。

 ベルギーは2002年、オランダに次ぎ世界で2番目に安楽死を合法化。2013年には、年間の安楽死者数としては過去最多の1807人が自ら死を選択した。

 安楽死が認められるのは、決断能力とはっきりとした意識があり、「自発的に、熟考の上、繰り返し」安楽死を希望しているといった厳格な条件が満たされた場合に限られている。

 ブリーケン受刑者の弁護士は昨年、同受刑者はこうした法的条件を全て満たしており、過去数年間は「これ以上、このような状況で生きることに耐えられない。もうこの痛みを受け入れられない」と感じてきたと述べていた。

 同受刑者は自らを社会への脅威と考えており、早期の仮釈放については辞退してきたものの、現在の収監状況は非人間的だと主張。オランダにある精神科医療センターへの移送を希望し、もしそれが認められないのであれば安楽死を選択するとしていた。

 ベルギー当局は当時、このオランダの施設への移送を認めなかった。また当局幹部の話では同受刑者は、昨年11月にベルギー北部のヘントに設立された新施設への移送も拒んだとされる。

 しかし昨年10月の内閣改造で法相に就任したギーンス氏が、このヘントの施設への移送を決定。同受刑者が必要とする長期的治療に向けて経過を観察すると発表した。(c)AFP/Philippe SIUBERSKI