【9月15日 AFP】ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)の「ひまわり」の黄色に見られ始めた「色あせ」と、エドバルト・ムンク(Edvard Munch)の「叫び」に描かれた曲線的な地平線のアプリコット色からアイボリー色への「変色」──両作品に共通していたのは当時流通し始めたばかりの「カドミウムイエロー」の存在だという。

 専門家らによると、現在、名画の多くには色あせが見られる。「巨匠の色」を捉えるためには、オリジナルの色彩が永遠に失われる前に、最先端技術の導入が欠かせないとしているが、そのためには、より多くの資金を投じる必要があるという。

「我々の文化的な財産は『病』に苦しんでいる」──オランダ・アムステルダム国立美術館(Amsterdam's Rijksmuseum)の保全・復元担当のRobert van Langh氏は、シンクロトロン放射技術の活用に関する会議で訪問したパリ(Paris)でAFPに語り、絵画保全のためには、現在の「10倍」の資金が投じられるべきとした。シンクロトン放射線の利用で、絵の具で起きている化学物質の劣化を分析できるという。

 同会議に出席した米デラウエア(Delaware)州のウィンタートゥル美術館(Winterthur Museum)美術保全担当のジェニファー・マス(Jennifer Mass)氏は、色の変化を止めるためには、それを引き起こしている化学反応を理解することが必要だと指摘する。

「研究者の間では、シンクロトン放射線を使った作業への機運が盛り上がっているが、そのための資金はほとんどない」(マス氏)

 劣化プロセスが理解できれば、展示室での適切な照明の選択や湿度の調整が可能になる。

「ひまわり」については、ゴッホが1888年に制作した当時よりも色あせていると専門家らは指摘する。ベルギーの化学者、コエン・ヤンセンス(Koen Janssens)氏によると、ゴッホは、当時市販されたばかりの産業用の顔料を使ったとされる。カドミウムイエローの顔料は、空気に触れることによって輝きを失い、また紫外線にさらされて茶色がかるという。ムンクの1910年の作品「叫び」にも同じ顔料が使われている。

 カドミウムイエローやエメラルドグリーン、ジンクイエローなどの合成顔料は、他の19世紀の印象派や、アンリ・マティス(Henri Matisse)やパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)など20世紀初頭の画家たちの間で人気だった。こうした合成顔料のなかには、わずか20年で色の深みを失い始めるものもある。そのため、この時代の絵画は、より古い作品よりも色あせのリスクが高いとマス氏は指摘する。

 ヤンセン氏は、美術作品の保全のためには、より多くの科学的アプローチが必要と主張する。また何も策を講じなかった場合、「50年後にどんな色になっているかをシミュレーションする作業にも取り組んでいる」と説明した。

「いま私たちが行動しなければ、未来の世代はこうした傑作を私たちと同じように鑑賞することはできなくなるだろう」とvan Langh氏は警告している。

(c)AFP/Pascale Mollard-Chenebenoit