【9月1日 AFP】マラリア感染を血液1滴で数分以内に診断できる安価で精度の高いツールを開発したとの研究論文が、8月31日の英医学誌「ネイチャー・メディスン(Nature Medicine)」に掲載された。

 このツールを開発したのは、米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)とシンガポールMIT連合研究・技術センター(Singapore-MIT Alliance for Research and TechnologySMART)の共同研究チーム。同チームによると、これまでのマラリア診断では、検査技師が顕微鏡で血液中のマラリア原虫を探すという、困難な割に誤診が発生しやすい手法が採用されてきたが、このツールはそれに取って代わる可能性があるという。

 従来の手法は、今日のマラリア診断の「標準」とみなされているが、その結果をめぐっては、検査技師の画像解釈スキル、顕微鏡や検査用薬品の質、スライドガラスに塗った血液サンプル自体の厚みなどに左右されることも多いという。

 研究チームによると、従来の手法に取って代わることが期待されているこの「安価な」卓上型の小型検査装置は、10マイクロリットル未満の血液サンプルを用いて、血液1マイクロリットルあたり10個未満の割合で含まれるマラリア原虫を検出できるという。10マイクロリットルは、指に針を刺して採取する血液の小さな1滴に相当する量だ。研究チームによると、検査手順に要する時間は数分程度。

 世界保健機関(World Health OrganizationWHO)によると、マラリアは予防と治療が可能である一方、2012年には約62万7000人がマラリアで死亡しており、その大半はアフリカの子どもたちだという。

 また2012年の世界のマラリア患者数は約2億700万人に達しており、現在の予算レベルはマラリア根絶に必要とされるレベルを「はるかに下回っている」と指摘している。

 今回発表された装置は、磁気共鳴画像(MRI)と同類の技術である磁気共鳴緩和測定(MRR)を使用している。MRIは、今日の高度な医療用スキャナーに用いられている技術だ。

 蚊に刺されることで人間に伝染するマラリア原虫は、血液中の栄養分豊富なヘモグロビンを摂取して代謝を行うが、今回の装置はこの際に生成される老廃物の結晶を測定する。

「ヘモゾイン(Hemozoin)」と呼ばれるこの結晶には微量の鉄分が含まれているため、ごくわずかに磁気を帯びている。このヘモゾイン微粒子の存在により測定の際の共鳴現象に乱れが生じる。またヘモゾイン微粒子の数が多いほど、この「同時性」に乱れが生じる速さが速くなるという。

 この検査は、感染有無の判別だけでなく、実際に治療が有効に機能しているかを判定する際にも利用できる。治療の効果は、患者の血液に含まれる原虫の数が減少していることで示される。

 SMARTの科学研究員、ウェン・クン・ペン(Weng Kung Peng)氏は「このシステムは、病院で使用されている100万ドル(約1億円)規模のMRI装置に比べると、非常に低コストで構築できる」と説明。また「この技術は化学試薬を用いる高価な標識化技術に依存していないため、診断検査を1回につき10セント(約10円)足らずの費用で実行できる」と続けた。

 研究チームは現在、東南アジア地域で実地試験を行っており、試作器の機能強化に関して検討を進めている。

 MITによると、同チームは現在「小型電子タブレットほどの大きさ」のポータブル型機器の開発に取り組んでおり、その電源として太陽エネルギーの利用について模索しているといいう。実現した際には、マラリアによる死者の大半を占めているサハラ以南のアフリカの人々に最も大きな恩恵をもたらすとみられている。(c)AFP