【8月21日 AFP】中国は映画産業の復興を巻き起こし、米ハリウッド(Hollywood)映画から国産映画を守ろうと、1930年代の中国映画初期の作品で、不幸な運命をたどった女優が心優しい売春婦を演じた無声映画『女神(神女、The Goddess)』を復活させた。

 1934年製作の『女神』は、上海(Shanghai)の映画産業の黄金期に作られた。夫を自殺で亡くした女性が、幼い息子の教育費を稼ぐために売春を始める。うわさ好きの隣人たちが彼女が売春していることを学校に明かし、息子は退学させられる。やがて彼女は自分から金を盗み取ったギャンブラーを殺害し、刑務所へ──。

 1958年に当時の周恩来(Zhou Enlai)首相の肝煎りで設立された政府後援の中国電影資料館(China Film Archive)が保存するフィルムから復元したこの映画のデジタルリマスター版が6月に開催された、上海国際映画祭(Shanghai International Film Festival)で上映された。政府は中国文化を世界に輸出してソフトパワー外交を強化し、また世界の映画産業における競争力を高めるために、こうした昔の映画のリマスター版を数作品作っている。

「『女神』は中国の無声映画時代の最高傑作といえる」と電影資料館の孫向輝(Sun Xianghui)氏は言う。匿名を条件に取材に応じた中国人のある研究者は「『女神』は左派的な社会批判を代表する映画であり、だから共産党はこの映画をずっと重んじてきた」と語った。

『女神』は欧米ではほとんど知られていないが、批評家たちには同時代に他国で作られた無声映画に引けを取らないと評価されている。それは主演女優、阮玲玉(Ruan Lingyu)によるところが大きい。阮はその時代、最も人気のあった女優であり、その立ち居振る舞いで感情を伝える演技力は秀逸だった。

 阮は29本の映画に出演したが、2人の恋人に裏切られ、1935年にわずか24歳の若さで自殺。彼女の葬列には何万人もの人々が参加し、彼女の死を悔やんだという。出演作のうちフィルムが現存するのは、わずか9本だ。

 しかし復刻版はハリウッドの大作に比べ、中国の一部の客層にしかアピールしていないようだ。上海で『女神』が公開される劇場はわずか2館。チケットは30ドル(約3000円)以上もする。

 他方、同じく上海映画祭でプレミア上映があったハリウッド映画『トランスフォーマー/ロストエイジ(Transformers: Age of Extinction)』の中国での興行収入は3億ドル(約300億円)を超え、同国史上最高の成績を収める勢いだ。

 中国映画に対する「脅威」を感じる同国政府は6月、国産の「影響力のある」映画5~10本に年間計1600万ドル(約16億5000万円)を投資すると発表。国内の映画産業に税控除も行うとしている。「米国の映画と全力で競い合っていく覚悟があることを知らしめなければならない」と、中国ラジオ映画テレビ総局・映画局管理局の張宏森(Zhang Hongsen)局長は国営メディアに語った。「これはわが国の文化領域を守る戦いだ」(c)AFP/Bill SAVADOVE