【7月29日 AFP】医師らが緊急帝王切開で母親のお腹から小さな命を慎重に取り出した時、妊婦は既に死後1時間が経過していた。

 パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)中心部のデイルアルバラ(Deir al-Balah)にある自宅がイスラエル軍の戦車からの砲撃を受けて全壊した時、シャイマ・シーク・カナン(Shayma al-Sheikh Qanan)さん(23)は妊娠8か月だった。がれきの下敷きとなったシャイマさんは、1時間後に救援隊員らに助け出された時には既に重体となっていた。地元ラジオ局記者の夫も重傷を負った。

 シャイマさんが搬送されたデイルアルバラの病院の医師は、「25日午前3時ごろ起きたイスラエルの砲撃の後、彼女は搬送されてきた」と語った。「蘇生を試みたが、搬送途中で既に息を引き取っていた」という。

 だが医師らは、シャイマさんの腹部に動きがあることに気づき、直ちに帝王切開手術を実施。胎内の赤ちゃんを救い出した。女の子だった赤ちゃんには、亡くなった母親と同じ名前が付けられた。

 シャイマさんの母親ミルファト・カナン(Mirfat Qanan)さん(43)は、娘を失ったことは悲劇だと語る一方、初めて祖母になれた喜びも語った。「神様がこの赤ん坊を守ってくださった。娘のシャイマは死んでしまったけれど、私にはまた新しい娘ができた。この子には私を『ママ』と呼ばせたい。この子の母親が、私のことをそう呼んでいたように」

 女児は現在、ガザ南部ハンユニス(Khan Yunis)にある別の病院の集中治療室に入っている。生後4日目を迎えた時点で、酸素マスクを通じて呼吸していた。容体は深刻で、医師らは今後注意深く観察を続ける方針だという。

 カナンさんは涙を浮かべ、声を震わせながら「娘は母親になることを心待ちにしていた。シャイマがイスラエルにいったい何をしたというの?警告もなしに家を破壊するなんて。娘は1年前に結婚したばかりの若い妻にすぎなかったのに」と訴えた。

 イスラエル軍は今月8日、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)によるロケット攻撃の阻止と、イスラエル南部に侵入するために掘られたトンネルの破壊を目的とした軍事作戦を開始。これまでにパレスチナ側に1050人以上の死者と、6200人以上の負傷者が出ている。

 国連(UN)の統計によると、犠牲者の4分の3以上が民間人で、うち子どもは230人以上、女性は約120人となっている。(c)AFP/Mai YAGHI