【2月22日 AFP】米国で悪名高いアンゴラ刑務所(Angola Prison)ことルイジアナ州立刑務所(Louisiana State Penitentiary)の狭い独居房で、ロバート・キング(Robert King)氏は29年間、1人で食事を取っては1人で床に就く孤独の日々を過ごした。

 キング氏は米国でかつて急進的な黒人解放運動を展開した政治組織、ブラックパンサー(Black Panther)党のメンバー。独居房では刺激がないため視力は衰えたが、独房収容の不当性と闘う決意は決して弱まることなく、政治的信念の強さでどうにか正気を保つことができたという。

 しかし、米国では現在8万人以上、世界全体ではさらに数えきれないほどいるだろう独房収容の受刑者たちは、大半がキング氏とは異なった精神状態にある。

 14日に米シカゴ(Chicago)で行われたアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)の年次会合で研究者たちは、人間の精神は独房収容の感覚的、社会的な隔離状態に耐えられるつくりをしていないと述べた。

 ミシガン大学(University of Michigan)の神経科学者、フダ・アキル(Huda Akil)氏は、視覚刺激や対人関係、身体活動、日光などを奪われると、人間の脳は数日で構造が変化すると指摘。一方で「触れ合いなど肯定的な感情を伴う体験をすると、脳内物質がポジティブに活性化する」が、こうした重要な刺激を人間から奪うことは危険を招く恐れがあり、脳の多くの構造を縮小させると説明した。

 カリフォルニア大学サンタクルーズ校(University of California, Santa Cruz)のクレイグ・ヘイニー(Craig Haney)教授(心理学)によると、米国で独居房に収容されている受刑者の約3分の1は、精神疾患を患っている。収容前に精神疾患がなかった受刑者の多くも、厳しい独房環境から不安神経症やうつ病、衝動抑制障害、社会恐怖症などを発症する。また、孤独感から幻聴が生じるようになる人もいる。ヘイニー教授は「社会的接触を奪われると人間は自己感覚を失う」と述べた。

 19世紀、何十万人もの受刑者を独居房に収容する大規模な心理学実験が行われた。隔離によって自己の内面と神に向き合い、更生を促す試みだったが、まもなく多くの受刑者が正気を失うことが明らかになった。

 それにもかかわらず独房収容が現在でも広範に行われているのは、暴力を振るう受刑者から刑務官を守る最も簡単な方法だと考えられているからだ。ヘイニー教授によると、米国では1970年代後半から独居房の使用が広まったが、当時の刑務官たちは、独居房が受刑者に与える悪影響を十分に認識していたという。

 アンゴラ刑務所の独房に長年収監されていたブラックパンサー党の元メンバー3人「アンゴラ・スリー(Angola Three)」の1人だったキング氏は、自宅からわずか数ブロックで道に迷ってしまうほど、独居房を体験した心理的ダメージが大きい。「(独房では)刑務所の中にはいるけれど、刑務所にやられるものかと心に誓っていた。我々が(獄中で)過ごした時間は、制度を変革するための闘いだったんだ」とキング氏は話した。(c)AFP