【11月13日 AFP】フランスの法相を務めるクリスティアーヌ・トビラ(Christiane Taubira)氏がわずか1か月で3回、人種差別の標的とされ、各方面から人種差別に対する怒りが沸き起こっている。

 極右系週刊誌ミニュット(Minute)の今週号は、黒人女性であるトビラ外相の写真を表紙に使い「サルのようにずる賢いトビラ、バナナを取り返す」とタイトルを付けた。

 13日、同誌の内容に対する非難が高まる中、マニュエル・バルス(Manuel Valls)内相は「これを見過ごすわけにはいかない」と述べ、同誌を発売禁止とする法的措置が可能かどうか検討すると発表した。

 フランスの反人種差別団体「SOSラシスム(SOS Racisme)」は、この表紙について告発する意向を示した。告発があれば否応なしに、違法性に関する捜査が行われる。同団体の創設メンバーの1人で与党・社会党のアルレム・デジール(Harlem Desir)第1書記は、同誌をすべて押収すべきだと述べた。

 ミニュット誌の問題に先立ち、トビラ法相は10月だけでも2度、公然とサルに例えられている。1度目は、同性婚に抗議するデモに参加した親が連れてきていた子どもたちのグループから、あざけりを受けた。もう1度は、極右政党・国民戦線(Front NationalFN)に所属する女性の選挙候補者によるもので、その候補は自分のフェイスブック(Facebook)に「トビラ氏は政治家をするよりも、木にぶら下がっていた方がいい」と書いた。

■消えるタブー、社会でうごめく「何か」

 こうした中、トビラ法相は13日の左派系日刊紙リベラシオン(Liberation)のインタビューに登場し、黒人として向けられた人種差別による動揺や失望感を初めて語った。

 トビラ法相は「ちょっとした失言などといったレベルでない、もっとずっと深刻なものだ。抑制が消え、堤防が壊されつつある」と述べ、自分が受けた扱いはフランスの社会的一体性がさらされている脅威の反映だとして懸念し、人種差別を公然と行うことへのタブーの崩壊に警鐘を鳴らした。

 またトビラ法相は、こうした出来事は昨年誕生した社会党政権で主要閣僚に指名されて以降、自分に向けられてきた敵意のごく一部に過ぎないと述べた。「これまで長い間、モンキーだ、バナナだといった侮辱を受けているが、誰もまだ着目していない、もっと捉えにくい何かが起こっている」と話し、例として同性婚に抗議する人々がいかに政権でなくトビラ法相個人を標的にしたか、また抗議運動の「フランスらしさ」をどれほど強調していたかを説明した。

 さらにトビラ氏は、自分が法相に起用された際のあからさまな反発にも言及した。当時、最大野党・国民運動連合(UMP)のジャンフランソワ・コペ(Jean-Francois Cope)党首は、同党の支持層である中道右派の有権者が、極右の国民戦線に流れることを阻止するために「国民戦線に票を投じれば、左派を勝利させることになり、トビラ氏が登用される」と発言した。

 人種差別行為そのものや、それを容認する風潮が拡大していると懸念するのはトビラ法相だけではない。フランスの人権団体や社会評論家からは相次いで警告の声が上がっている。

 トビラ法相のインタビューを受けて、フランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領は、人種差別の脅威について社会全体がもっと危機感を持たなければならないと警告したが、ジャンマルク・エロー(Jean-Marc Ayrault)首相は「フランス人の大多数は人種差別を容認しないと確信している」と述べた。(c)AFP/Beatrice Le Bohec