【10月15日 AFP】2004年に死去したパレスチナ解放機構(PLO)の故ヤセル・アラファト(Yasser Arafat)前議長(当時75)の衣服から毒性の放射性物質ポロニウムが検出されたことを確認したとの論文を、スイスの放射性物質専門家らのチームが、先週末の英医学専門誌ランセット(Lancet)で発表した。アラファト氏毒殺の「可能性を裏付ける」結果だとしている。

 アラファト前議長は、2004年11月11日にフランスで死去。スーハ(Suha Arafat)夫人の希望で検視は行われず、死因は特定されなかった。しかし2006年に英ロンドン(London)でロシアの元情報局員で同政府に批判的だったアレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏が放射性物質で暗殺された事件の後、アラファト氏の毒殺疑惑も広まり、その真偽確認も一因となって2012年11月に同氏の遺体が墓地から掘り起こされ、サンプルが採取された。この調査は現在も、フランス・スイス・ロシアの各チームが個別に継続している。

 同誌に発表された論文によると、スイス・ローザンヌ(Lausanne)にある放射線物理学研究所(Institute of Radiation Physics)と法医学大学センター(University Centre of Legal Medicine)の科学者8人が75サンプルについて放射性物質検査を実施。このうち38サンプルは、スーハ夫人から提供された下着や歯ブラシなどの遺品から採取されたものだった。これらサンプルを、10年間防じん保護され屋根裏に保管されていた綿の衣類から採取した37の「標準サンプル」と対照比較した。

 これにより、「体液(血液と尿)の染みのある複数のサンプルに、標準サンプルに比べて説明のつかない量のポロニウム210が含まれていた」ことが分かり、「アラファト氏がポロニウム210で毒殺されたという可能性を裏付ける」結果が出たとしている。

 これについて、同研究所を管轄するボードワ大学病院センター(Vaudois University Hospital CentreCHUV)の広報局長はAFPの取材に対し、この論文は以前メディアが入手した内容の「科学版」に過ぎず、2012年に報じられていたことと比べ「新しいことは何もない」として、アラファト氏が「毒殺されたという結論は出ていない」と語っている。(c)AFP/Richard INGHAM